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2019-07-31 00:00
(連載2)イラン緊迫、それでも戦争にはならない
宇田川 敬介
作家・ジャーナリスト
そのように考えれば、安倍首相の担った役割は非常に大きい。そのために、アメリカは戦争に踏み切れない状態になっている。それでも戦争論が出てきているのは、日本のタンカーが襲撃された事件が刺激的だったからだ。ホルムズ海峡は、世界のエネルギーの大動脈と言ってよい。日本においても、日本の輸入量の80%を超える石油がホルムズ海峡を通るタンカーによって輸送されているのである。そのすべてが「人質」に取られているという状態は問題がある。この場合に重要なのは、「タンカーを襲撃したのは誰か」ということだ。イラン政府なのか、イランの反乱分子なのか、それともイランに罪を着せた第三国なのか、いまだにわかっていない。そしてもう一つ大切なのは、日本に対するイランの信頼の毀損についてである。つまり、せっかく和平に動きながらも、アメリカが何かすれば、すぐにアメリカ寄りになってしまうというのでは、イランの対日姿勢も変化しよう。
このような段階で、「有志連合」構想がトランプ大統領から出た。ホルムズ海峡のタンカーを守るために、そこを利用している国々が警備に当たる枠組みを作ろうということだ。この提案をどう解釈すればよいのだろうか。一つは、アメリカやイギリスがイランと戦争をする際の多国籍軍の準備組織を作ろうとしている、という見方だ。この場合、アメリカが自衛隊を「有志連合」に組み込もうとすることの意味は、日本にイランとの戦争に参加させることにあるということになる。しかし、それでは日本が和平の仲介者として存在することができなくなることと同義だ。ひいては、イランと中国の連携を強めかねず、インド洋で「有志連合」と「一帯一路」陣営との紛争が発生し、パキスタンなどが中国に接近する可能性を増やすことも起きうる。
他方の解釈は、ホルムズ海峡警備を行っても戦争にはならないという見通しがあるから日本を組み込もうとしている、という見立てだ。つまり、自衛隊が憲法上戦うことはしないという前提を飲んだ上で、アメリカは日本に参加を要請しているということだ。日本の信用を利用して「テロリストをあぶりだすための手段」ということを行うという解釈である。日本は、従前「テロとの戦い」には取り組んでいることから、そこまでならば参加できる。日本の国旗があることで、当然にイランもある位程度遠慮するという算段だ。
私は、トランプ大統領はこのどちらとも考えてはおらず、日本をイランの反応を見るためのリトマス試験紙に使おうとしているのではないかと考えている。まさにそのように使われることによってイランの出方を見るということになるのである。G20の後、アメリカは明らかにイラン「政府」を悪役にしなくなった。その会見の変化に気づくかどうかで見方が大きく変わってこよう。そのような微妙な変化が本物でなければ本当に戦争になってしまうかもしれないが、まだその時期ではないような気がするのである。(おわり)
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