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2019-07-25 00:00
(連載2)イラン核問題がNPT体制を揺るがす理由
倉西 雅子
政治学者
第2の問題点は、NPT体制には包括性が欠如している点です。インドとパキスタン、並びに、イスラエルの3国はNPTを批准せず、1970年の同体制発足当初から参加していません。つまり、NPT体制の枠外にあるため、同条約による法的拘束から免れることができるのです。この状態は、先の日本国の事例に喩えれば、国内に警察権力が及ばない無法空間が存在していることを意味します。包括性の欠如は、同体制による安全の保障が不完全であることに他ならないのです。
しかも、これらの常任理事国以外の核保有国は決して無害なわけではなく、警察が治安の維持という公的目的の下で拳銃を携帯するのとは違い、国際社会に対する何らの公的責務を負っていませんので、周辺諸国に対して核を以って威嚇することができます。核保有国による義務なき核の利己的、かつ、非平和的な利用こそ、第3の問題点となりましょう。言い換えますと、これらの諸国は、印パ戦争や中東戦争を根拠とするものであれ、公的な義務を負うことなく特権だけは享受できますので、最も危険、かつ、狡猾な国と云うことができるのです。そして、NPTからの一方的な脱退を宣言した北朝鮮(最も、国際社会は独国の脱退を認めていない…)、並びに、NPT批准国でありながらウラン濃縮を再開したイランは、これらの諸国を模倣していると推測されるのです。
以上に主要な3点を挙げて見ましたが、この3点に照らしますと、イランのウラン濃縮の再開がNPT体制を崩壊に導く可能性が極めて高い理由がおぼろげながら見えてきます。同国の核開発・保有計画は、中国とロシアのバックアップの下で進められ、かつ、今般の再開も両国の承認に依るものなのでしょうから、‘警察官’が、無法者の拳銃保持を幇助したに等しくなります。これでは、警察官に対する国民の信頼は地に墜ちますので、当然に、現行の治安維持体制に対する見直し要求も高まることでしょう。その一方で、上述した核保有国の行動を真似て、周辺諸国に対して優位な立場を得るために核を保有しようとする国も増加することでしょう。
つまり、無法地帯がじわりじわりと拡大し、その裏で警察と違法国家が手を組むのですから、他の諸国の安全保障上のリスクは格段に上昇します。NPT体制の下では全ての国の安全が保障されないこととなり、別の体制、あるいは、手段を考えざるを得なくなるのです(アメリカも、世界の警察官の重荷に耐えられないのであるならばなおさらのこと…)。果たして、国際社会の現実を見据えたNPT見直し論は、平和に反する根拠なき暴論なのでしょうか。(おわり)
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