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2019-07-23 00:00
「哲学」を欠く安倍外交
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
共同通信の15日の報道によると「安倍政権が進める日ロ平和条約交渉で、ロシア側が日米同盟による脅威などを理由に、1956年の日ソ共同宣言に明記された歯舞群島と色丹島の2島引き渡しの協議入りも拒否していたことが14日分かった。複数の日ロ関係筋が明らかにした」とのことだ。「泰山鳴動してネズミ一匹」とはこういうこと。「日本固有の領土」・「北方四島」・「不法占拠」・「北方領土帰属問題」等々という「言葉」をすべて封印してまで当たってきた日露交渉。「ついに70年にして解決か?」と華々しく活字が躍ったのは何時のことだったか?北方四島は「日本固有の領土」という70年来の主張を封印してまで2島返還での決着を図った安倍外交も、ついに北海の藻屑と消え去って、今は昔のこととなってしまった。ただし、この外電によれば「プーチン政権内で領土問題の譲歩による支持率低下の懸念が高まったため」だというから、いずこも同じポピュリズム政治の弊。洋の東西を問わず、政治は真理の探究にあらずして、支持率世論調査のためにあるらしい。
それにしても、外交の安倍の金看板は次々とメッキが剥落して、ついにちゃんとした金看板は一枚も残っていない。隣国韓国とは、もはや1965年の日韓基本条約調印以来、最大の危機を招いている。どちらが正しいとか正しくないとかは今は措いて、これがいかに容易ならざる事態であるかといことは間違いない。「拉致問題」を衣の下に隠して北朝鮮トップと談判におよぶと意気込んでいたのはつい先ごろの話だったが、それを実現するためには文在寅韓国大統領の口添え無くては叶わぬであろうに、これと戦端を開いては最早手づるは無かろう。トランプ米大統領は大阪からの復路に板門店で金正恩氏と三回目の会談におよんだが、それも文大統領の仲立ちあったればこそだ。その画策を米国大統領から安倍氏が聴かされていなかったこと自体が、すでにして外交的敗北であった。拉致被害者の希望はまたしても安倍外交の失敗によって遠のいたのである。
他方、いまや、ホルムズ海峡は波高く一触即発の状況だ。アメリカからは「有志連合」への誘いが窮迫しているであろうことは想像に難くない。しかし、つい先ごろテヘラン政府最高権力者と会ってきたばかりの安倍氏率いる日本国が、有志連合に入会するというのでは一貫性がない。となれば、日米安保の片務性に関して盛んにゆすってくるトランプ氏の脅迫を追い返せるかどうか疑問である。
イラン問題についてヨーロッパに頼るにしても独仏をはじめとして各国リーダーの安倍評はいまいち望めないように見える。残るは虚々実々の習近平の中国だが、そもそも論外のソトであろう。つまるところ、安倍日本外交は四面楚歌に陥っているといえるのではないだろうか。安倍外交に必要で不足していたのは、共感のための「哲学」である。地球儀を回して「俯瞰」していただけでは、外交にはならない。
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