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2019-07-13 00:00
(連載2)第3回米朝首脳会談と核凍結案の真偽
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
ところが、ここにきてトランプ側がかなり突っ込んだ譲歩案を検討中であるかのような推測が真しやかに流れている。これが北朝鮮の開発・保有する核兵器の凍結案である。これは『ニューヨーク・タイムズ紙』が6月30日にトランプ政権が凍結案を検討中であるといった記事を掲載したことに端を発している。北朝鮮の開発・保有する核兵器の凍結はクリントン政権時代の1994年10月に締結された米朝枠組み合意を想起させる。同枠組み合意では北朝鮮は核兵器開発を一定期間、凍結し最終的に廃棄することが定められた。核兵器の開発・保有を凍結するのは一見したところ米朝双方に都合がよいように映るが、核兵器の凍結後一定期間を経て最終的な廃棄に向かうのか、それとも凍結のままで終わるのかという、避けて通れぬ問題が横たわる。最終的な廃棄を前提とする凍結であるのであれば、必ずしも悪い取引と断定する必要はない。その代わり、総ての核兵器開発計画の全容を盛り込んだ申告が提出されなければならず、申告に照らして査察を綿密に行う必要がある。ところが、『ニューヨーク・タイムズ紙』をはじめ多くのメディアの報道ではどうも核兵器の最終的な廃棄を前提とする凍結ではなく、北朝鮮の開発・保有する核兵器を凍結することで、非核化が完遂するようなニュアンスで報道されている。もしも後者であるとすれば、この凍結案は遅かれ早かれ北朝鮮の核の保有を承認することになるという意味合いになりかねない。そうした文脈で凍結案が論じられているとすれば、まったく本末転倒の議論である。
これに対し、ボルトンも「・・NSC関係者や私自身の中で誰もこれを議論したり聞いたりしたことがない」と一蹴した。また米国側の実務者交渉担当者であるビーガンも「・・完璧な推測である」と相手にしなかった。本当のところはどうなのか。 2018年6月の第1回米朝首脳会談以来、北朝鮮の「完全な非核化」の完遂が掲げられてきたが、もし核兵器の凍結で手を打つとすれば、トランプ側が自ら設定した目的を放棄することを意味する。北朝鮮の核保有を事実上、承認するということはこれまで何としても回避しなければならないとしてきた事態が現実に生じることを物語る。核保有の承認は再三にわたり科してきた経済制裁が立脚する根拠を曖昧にするだけでなく、在韓米軍の撤収や米朝平和条約の締結などなど、一連の連鎖反応を導きかねない。これではトランプの外交成果になるどころか、米国内での確固たる支持基盤さえトランプは失いかねない。対北朝鮮経済制裁の継続を支持する米連邦議会もそうした凍結案に真っ向から反対するであろう。また米大統領選へ出馬を狙う米民主党の候補者達にとってトランプを攻撃する格好の材料となるであろう。
そればかりかより本質的な問題は、韓国や日本の安全保障が根本から再検討せざるをえない状況に追い込まれかねないことである。北朝鮮の核の脅威に日々曝されることなる韓国内では核保有論議が遅かれ早かれ沸騰しかねない。我が国としても核兵器を名実ともに保有した北朝鮮とどのように向かい会わなければならないかは避けて通れぬ問題となろう。しかも日米安保条約を事あるごとに不公平であるとトランプが発言している時にである。実際にトランプは6月29日に「・・誰かが日本を攻撃すれば、我々は反撃し、全軍全力で戦う。・・しかし、誰かが米国を攻撃しても、彼らはそれをする必要はない・・」と語った。核兵器の凍結案を喜ぶのは金正恩体制と金正恩の熱烈な支持者である文在寅ぐらいのものであろう。もしもトランプ政権の一部が核兵器の凍結案を検討しているのが本当であるとすれば、これと関連して出てきかねないのはICBMの廃棄をトランプ側が求める可能性である。米国本土に直接脅威を与えかねないICBMの廃棄は断固求める一方、短距離核ミサイルや中距離核ミサイルはその限りではないような案をトランプ政権が検討するようなことがあれば、米韓同盟や日米同盟の存立基盤も怪しくなりかねない。
トランプがもしも眼前の外交成果ばかりに目を奪われ核兵器の凍結案やICBM廃棄案に傾斜することがあれば、それこそトランプが何よりも拘る大統領再選の見通しを怪しくしかねないのである。韓国や日本の安全保障を含め、「完全な非核化」の完遂のカギを握るのは良くも悪くも米国大統領であるトランプである。そのトランプがここにきて基本線でぶれるようなことがあってはならない。これでは金正恩の思う壺であろう。もしもそうではなくトランプ政権の幹部の一部が外部の反応を見るためアドバルーンを上げるかのように核兵器の凍結案を一部のメディアに意図的にリークしているのであれば別であろうが、実際のところ不明である。ここにきて、膠着状態を続けてきた米朝関係は激しく動く可能性があることを示唆している。(おわり)
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