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2019-06-28 00:00
(連載2)膠着する朝鮮半島情勢と韓国の安全保障
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
続いてトランプ政権と文在寅政権の間で在韓米軍駐留経費の分担で揉めていた在韓米軍の駐留は最終的に文在演側がトランプ側の求めに応じ約10億ドルに増額することでなんとか一年間更新されることになった。米韓同盟はこれにより事なきを得たが一年後、再更新されるどうか必ずしも明らかでない。また米韓連合軍による合同演習が2018年以降、中止あるいは大幅に縮小されていることも韓国の安全保障に悪影響を与えかねない。これは南北融和を唱える文在寅だけでなく合同軍事演習の費用削減を重視するトランプの意向にもよるところも大きい。 2018年8月に予定された乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン(UFG)演習が中止されたのに続き、2019年3月にはキー・リゾルブ(KR)演習が、4月にはトクスリ(FE)演習がそれぞれ縮小して実施された。しかも特筆すべきは文在寅が大統領在任中に戦時作戦統制権を在韓米軍から韓国軍に移転しようとしていることである。もし実現すれば、これまで米軍指揮の下で確保されてきた米韓連合軍の統一的なまとまりは失われかねない。こうした動きは南北融和を唱え金正恩に阿る文在寅の発想からでたものなのか必ずしも明らかではないが、相対的に朝鮮人民軍の脅威が増大するという皮肉な結果につながりかねない。
さらに2018年以降の朝鮮半島の緊張緩和に逆行するかのように、金正恩指導部は核・ミサイル開発を間断なく継続している。この間、米国の情報機関はひっきりなしに核・ミサイル開発が行われていることを指摘してきた。2018年の段階で北朝鮮の核弾頭数は20発から60発程度に及ぶと米情報機関は推定したが、核弾頭数は今後さらに増えることが懸念される。そこに持ってきて公表されたのが国連安保理事会の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルによる報告書であった。2019年3月12日に公刊された年次報告書(United Nations Security Council S/2019/171 (March 5, 2019.))は北朝鮮による経済制裁逃れの違法活動だけでなく核・ミサイル開発が続いている実態を明らかにした。まず問題となるのは寧辺核施設である。同施設は相変わらず稼働していると報告書は指摘した。寧辺にある5000キロ・ワット級黒鉛炉は2018年2月、3月、4月にそれぞれ数日間稼働を停止したのに加え、9月から10月にかけて一定の期間に及び稼働が停止したことが確認された。2月、3月、4月の数日間の稼働停止はメンテナンス作業のためと推察される一方、9月から10月の間に黒鉛炉が稼働を停止した間に使用済み核燃料棒が取り出された可能性がある。また寧辺核施設にある実験用軽水炉施設の西側に建物が建造されているが、これは寧辺核施設への空爆に対処するため施設を拡散しているのではないかと疑われた。再処理施設である「放射化学実験室」も稼動しているのではないかとみられる。寧辺核施設以外ではウラン濃縮施設と目されるのが降仙(カンソン)である。降仙では大型トラックが定期的に出入りしている様子が確認されたが、特段、目立った動きはないとみられると報告書は指摘した。また平山(ピョンサン)にはウラン鉱山がある。平山で大量の土砂が運び出される様子が人工衛星写真に映し出された。これは平山でウランの採鉱が行われているのではないかと疑惑視される。加えて、弾道ミサイルの開発と実験が民間の工場や空港において大々的に行われているとみられると報告書は指弾した。
加えて、対韓、対日核攻撃能力だけでなく対米核攻撃能力も漸次向上しているとの推察がある。大方の推測では日本を射程内に捉える中距離弾道ミサイルのノドンは核弾頭搭載可能と目される。またICBMの開発も継続していると推察される。2017年11月29日深夜に強行された「火星15」型ICBMの潜在的な射程距離は約13000キロ・メートルにも及ぶとミサイル専門家が推定した。とは言え、最難関とされる「再突入技術」などはまた確立されていないとして、その実用化に疑義が表明された。当時、ミサイル専門家は米西海岸を射程に捉えるICBMは一年以内に完成するのではないかと推定していたが、その後今日まで1年半も経過している。この間、ICBM発射実験は中断されているものの、ICBMの開発は確実に進捗していることが案じられる。このことを裏付けるかのように、オーショネッシー(Terrence J. O'Shaughnessy)北米航空宇宙防衛司令部司令官はICBMの生産と実戦配備が近づいていると考えると米上院軍事委員会で2019年4月3日に証言した。多少誇張されている嫌いもあるが、同証言は必ずしも否定できない。
こうした中で、時間が経過していることは危惧すべきことであろう。対北朝鮮経済制裁の継続により金正恩指導部が確保している保有外貨が漸次、枯渇に向かっているだけでなく、安保理事会決議2397により石油精製品の輸入が厳しく制限された一方、北朝鮮の核・ミサイル開発は一層進んでいるのである。この間、上述の通りトランプと金正恩の米朝両陣営の間で駆け引きと牽制が続いているが、譲歩を導くような兆候や気配が一向に見えてこない。その間、両陣営の幹部達が激しい挑発と罵り合いを繰り広げていることは実に憂慮すべきことであろう。2017年後半の緊張状態が再現されないとも限らないのである。(おわり)
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