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2019-06-15 00:00
(連載2)北朝鮮の食糧不足をどう見るべきか
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
上述の通り、安保理事会決議に従い北朝鮮の主な輸出品目が全面的に輸出禁止となった。2018年の北朝鮮による対中国輸出額は2億1314億ドルであったが、この数字は前年の2017年に比較して88%の縮小を物語った。2018年を通じ数度に及び中朝首脳会談が開催され、中朝関係の改善を世界に向けて発信したとは言え、今のところ石炭、鉄・鉄鉱石、鉛・鉛鉱石、繊維製品、海産物など北朝鮮の主な輸出品目の輸出禁止が解かれるという見通しは立っていない。中国政府が2019年4月末に公表した貿易統計によると、今年の1月から3月までの四半期における北朝鮮による対中国輸出額は2018年の同じ時期と比較して、さらに約2割減の約6889万ドルであったとされる。このことは対中国輸出額の下落に歯止めが全く掛かっていないことを物語る。
北朝鮮はそもそも対中国輸出による収益の多くを北朝鮮国民が必要とする生活必需品の購入に充ててきたが、安保理事会決議を受け中国への主な輸出品目が全面的に輸出禁止となった結果、それが日々難しくなっている。それでも金正恩指導部が希少な備蓄外貨を使い生活必需品を中国から輸入し、国内市場に流しているのではないかとみられている。この結果、北朝鮮の対中国貿易赤字額は間断なく増大する傾向にある。実際に赤字額は2017年以降、毎年20億ドル以上を記録しているとされる。膨大な赤字は北朝鮮の保有外貨が遠からず枯渇しかねないという状況を招きつつある。保有外貨の枯渇という見通しは朝鮮労働党、政府、軍、警察幹部など支配層の生活にも次第に影響しつつあるとされる。他方、北朝鮮国民の多くは今のところ、全国に400以上も点在するとされる市場で生活必需品を買い集め何とか耐え凌いでいるとされる。とは言え、経済制裁が一向に緩まない中でこうした状況がいつまで続くのか案じられよう。北朝鮮の対中国貿易赤字額の増大は経済成長率の歯止めの掛からない下落にも表れている。2017年にマイナス3.5%を記録した経済成長率は2018年にマイナス5%に下落した。
こうした中で、窮地に立たされた感のある金正恩指導部は海上違法取引などありとあらゆる手段を用いて石油と外貨を確保しようと血眼になっている。これに対し、国連専門機関である国際海事機関(IMO)の加盟国は北朝鮮による海上違法取引に一層目を光らせている。このため、違法取引が頻繁に摘発される中で、違法取引を通じた外貨獲得はますます難しくなっている。先日は大型の北朝鮮船舶の「ワイズ・オネスト号」が米国政府により拿捕され、米国領海へ移送されている。食糧不足が今後一層深刻化する中で、外部世界に緊急人道支援を仰ぐほか手段は金正恩にとってなくなろう。こうした中で、文在演政権は5月17日に世界食糧計画や国連児童基金(UNICEF)などの国連機関を通じ800万ドル相当の緊急支援を実施することを発表した。また同政権は開城(ケソン)工業団地事業に関わってきた韓国企業に対し開城訪問と工場視察を許可したことも明らかにした。文在演としては緊急人道支援の決定を契機として、ゆくゆくは開城工業団地事業の再開に是が非でもつなげたい意向であることが見て取れる。
しかし文在演政権が供給するとした800万ドル程度の支援額が北朝鮮の深刻な食糧不足を解決する有効な手立てになるであろうか。米(コメ)の国際取引価格が1トン当たり約400ドル相当で推移していることを踏まえると、支援額を米価格に換算すると2万トン程度にしかならない。2万トン程度の米(コメ)の支給が北朝鮮の直面している深刻な食糧不足を救えるであろうか。この程度の支援額では一桁どころか二桁も足りないと金正恩は考えているのではなかろうか。結局、文在演政権による緊急人道支援は金正恩にとって「焼け石に水」程度にしか映らないであろう。しかも文在演政権が緊急人道支援に諸手を挙げているとは言え、他にどこの国が人道支援に加わるであろうか。また人道支援の実施にも疑問が湧かないわけではない。実際、食糧不足に苦しむ国民の元に確実に国連機関は食糧を届けることができるのか。外部世界による厳しい監視がないのであれば、支援は苦しむ国民ではなく回り回ってあらぬ所に流れるとも限らないからである。(おわり)
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