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2019-06-14 00:00
(連載1)北朝鮮の食糧不足をどう見るべきか
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
北朝鮮の食糧不足が日々、深刻化している。2018年における北朝鮮の穀物生産量はここ10年間で最低を記録したと世界食糧計画(WFP)は評価した。また国連食糧農業機関(FAO)は2019年に計136万トン相当の食糧不足が発生すると見積もっている。食糧不足が深刻化している背景には様々な事由がある。その一つは記録的な少雨が続いていることである。2019年の平均降水量は例年のわずか4割程度に過ぎないという。1917年以来、降水量が最低水準にあるとされるが、これが事実であるとすれば、百年に一度の少雨ということになる。降水量不足が食糧生産の不振に拍車を掛け、降水量不足を起因とする干ばつが続くことになれば、これが食糧不足を一層悪化させ、食糧不足はやがて飢餓となって跳ね返りかねない。
これに加え、国連安保理事会による経済制裁が間断なく北朝鮮経済を締め上げている。2006年7月から2017年12月までに安保理事会では北朝鮮に対する経済制裁措置を盛り込んだ決議が11件、採択された。とは言え、2016年3月に採択された決議2270以前に採択された諸決議は大量破壊兵器や金融面での規制が主たる内容であった。しかし決議2270とそれに続く決議2321、決議2371、決議2375、決議2397などの諸決議が経済制裁の内容を一変させたと言えよう。この結果、北朝鮮の主たる輸出品目である石炭、鉄・鉄鉱石、鉛・鉛鉱石、繊維製品、海産物などは全面的に輸出禁止となった。また北朝鮮が外国へ派遣する労働者も規制対象となった。これにより、金正恩指導部にとって確保したいと考える外貨水準の9割以上が入らなくなったとされる。他方、北朝鮮の主な輸入品目である石油に厳しい縛りが掛かった。石油全体の内、原油の輸入は毎年400万バレルとされた一方、ガソリン、軽油、灯油などの石油精製品には50万バレルという厳しい上限が科された。この50万バレルという上限は実に89%の縮小を意味した。言葉を変えると、石油精製品はほぼ全面的に入らなくなることを示唆したのである。後述のとおり、金正恩指導部が2018年以降、形振り構わず海上違法取引を通じ石油精製品を確保しようとしているのはこの表れである。
他方、安保理事会決議に基づく経済制裁が解除される見通しは一向に立っていない。その主な事由は金正恩朝鮮労働党委員長が2018年6月上旬にシンガポールで開催された第1回米朝首脳会談でトランプ大統領を前にして「完全な非核化」の完遂に同意していながら、実際には非核化の完遂に向けて金正恩が真摯に取り組んでいるとはとても言い難いからである。この結果、非核化の実施は遅々として進んでいない。これではトランプが経済制裁を解除しないのも無理はない。その後、2019年2月末にハノイで第2回米朝首脳会談が開催された際、金正恩は寧辺(ヨンビョン)核施設の廃棄と引き換えに国連による「経済制裁の全面解除」をトランプに要求したとされるが、トランプにとってみれば寧辺核施設の廃棄だけでは「完全な非核化」の完遂から程遠い。これでは明らかに不十分であると判断したトランプが首脳会談の席を立ったことは周知の通りである。その直後、崔善姫(チェ・ソンヒ)(現、北朝鮮外務次官)が「・・米国は千載一遇の機会を逃した」と捨て台詞を残したが、制裁の解除に向けた千載一遇の機会を逃したのは金正恩の側であったことは明らかであろう。
近年、北朝鮮は貿易総額の9割以上を中国との中朝貿易に依拠してきた。このことから分かるとおり、北朝鮮にとって中国との貿易は死活的な重要性を持つが、その中で対中国輸出額が劇的に縮小している。その主な事由はこれまで北朝鮮の「後ろ盾」となりその経済を背後から支えてきた中国の習近平指導部までが国連経済制裁決議の履行に加わっているからである。一つには安保理事会常任理事国として中国が経済制裁の履行において以前より前向きであることが指摘されよう。また米国との貿易摩擦で中国経済が少なからずの打撃を受けている現状で、経済制裁を一方的に緩和することによりトランプの逆鱗に触れることがあれば、北朝鮮と取引を行っている中国企業や金融機関が米国政府によるセカンダリーボイコットの対象となりかねないことを習近平指導部が恐れていることもあろう。そうした事態を回避すべく制裁の履行に習近平指導部が前向きであるとも考えられる。いずれにせよ、習近平指導部が経済制裁の履行に積極的であることは金正恩にとって想定外のことである。この結果、対中国輸出額が激減する状況が続いている。(つづく)
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