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2019-06-05 00:00
(連載1)金正恩の海上違法取引を傍観する文在寅
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
2019年4月12日に北朝鮮最高人民会議での施政方針演説の中で、金正恩朝鮮労働党委員長が文在演政権に向けて警告を発した。金正恩曰く、「・・韓国当局が真に北南関係の改善および平和と統一の道へ進もうとするならば、我々の立場と意志に共感して歩調を合わせなければならず、言葉ではなく実際の行動で誠実さを示す勇断を下さなければならない」。この要求は一義的には開城(ケソン)工業団地や金剛山(クムガンサン)観光事業などに代表される南北交流事業の再開を要求していると捉えることができよう。文在寅大統領が事あるたびに示唆していながら、トランプ大統領に威圧される格好でその再開に踏み切れないことに対し、金正恩が苛立ちを表すと共に一日も早い再開を文在寅に要求したものであると捉えることができる。南北交流事業の再開は、保有外貨の枯渇を案じ始めた金正恩指導部にとって喉から手が出るほど欲しいものであろう。実際に文在演は2018年9月中旬の第3回南北首脳会談後の10月に南北交流事業の再開を示唆したが、トランプの猛反発に会い再開を止められたという経緯がある。
開城工業団地の操業を2016年2月に中断したのは朴槿恵政権であり、韓国政府による独自制裁の発動として行われたと理解された。しかし同措置は単に韓国政府による独自制裁と言えるものではなく、米国法や国連安保理事会決議とも複雑に絡み合っているとされる。したがって、その再開を文在演政権が強行しようとすればトランプ政権だけでなく米連邦議会の逆鱗に触れることになりかねない。クルーズ(Rafael Cruz)上院議員(共和党)とメネンデス(Robert Menendez)上院議員(民主党)が、2019年2月末の第2回米朝首脳会談を控えた2月11日に急を要する書簡をポンペオ国務長官に送付した。その中で、文在演が上述の南北交流事業を再開しようとしているが、それに応じるべきではないとポンペオに両者は強く要望したのである。対北朝鮮経済制裁が安保理事会決議ならびに米国法に従い履行されていることを踏まえ、一方的に南北交流事業の再開に向けて文在寅が動くことがあれば、制裁を弱体化させるばかりか安保理事会決議や米国法への違反となりかねないと両議員は力説した。その意味するところはこれに関与する韓国企業にセカンダリー・ボイコットとして制裁が科される可能性を暗に示唆したと言えよう。
第2回米朝首脳会談の直前には南北交流事業の一部である金剛山観光事業の再開がトランプ側から金正恩側に提示されるのではないかとみられたが、こうした米上院議員達の働きかけが功を奏したのか、ボルトン大統領補佐官がまとめたとされる米国案からは南北交流事業の一部の再開が抜け落ちていた。こうした中で、南北交流事業の再開に一向に踏み切れない文在演に対し歯がゆくて仕方がないのが金正恩の本音であろう。このことこそ、「韓国当局は・・おせっかいな『仲裁者』や『促進者』のごとく振る舞うのではなく、民族の一員として・・民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」と、前述の施政方針演説の中で金正恩が言わんとしたことなのであろう。しかし「・・民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」との金正恩の要求ともつかぬ警告ともつかぬ発言は南北交流事業の再開だけを意味しているわけではなく、あらゆる活動を通じ南北融和に文在演は邁進しなければならないと金正恩が迫っているのではなかろうか。その中には制裁逃れのために違法取引への関与を文在演側に少なくとも黙認するよう要望しているのではないか。
2017年末に一触即発の感があった朝鮮半島情勢は、確かに2018年を通じ緊張緩和に向かうと共に、軍事衝突の危険性は著しく低減した。その立役者が南北間、米朝間で「仲介外交」を繰り広げた文在寅の努力によるところはある。2018年4月27日の第1回南北首脳会談に続き、5月26日に第2回南北首脳会談を急遽、開催し一旦は中止が決まった第1回米朝首脳会談の開催に貢献した。さらに第1回米朝首脳会談以降、金正恩がなかなか非核化に応じないために米朝関係が膠着化する中で9月中旬に第3回南北首脳会談を開催し、「平壌共同宣言」を成立させた。こうした文在演による「仲介外交」は派手な政治ショーに映ったが、その背後で文在演政権が金正恩指導部による違法取引を少なくとも傍観してきたのではないかと疑われている。その一つは北朝鮮産出石炭の韓国への搬入である。2017年11月にパナマやベリーズ船籍などの数隻の第三国船舶が北朝鮮産出の石炭をロシアの港で積み替え、韓国の東海(トンヘ)港や浦項(ポハン)港に持ち込んでいたことが2018年8月に発覚した。持ち込まれた石炭の分量は計1万5000トンに及んだとされる。(つづく)
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