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2019-05-28 00:00
(連載2)対北朝鮮経済制裁の影響と金正恩による違法取引
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
現在も経済制裁の実効性は不透明であったり、曖昧なところが少なくない。北朝鮮と国境を接する中国との貿易は北朝鮮の貿易総額の実に9割以上を占めるとされてきた。したがって、中国が厳格に安保理事会決議を履行しようものならば、北朝鮮経済は遅かれ早かれ窮地に立たされることを意味する。しかし中国による経済制裁の履行の実態が未だに必ずしも明らかでない。これまでその履行にはしばしば疑義が表明されてきた。また公式統計に表れない中朝間の非公式貿易の問題もある。しかも非公式の中朝貿易額は公式統計額を上回っているのではないかと疑われている。他方、中国が安保理事会常任理事国であることの責任において習近平指導部が以前に比較して決議の履行に積極的であるとの報道も聞かれる。
いずれにせよ、上述の諸決議の採択の結果、北朝鮮が輸入する石油の輸入に縛りがかかったことは確である。石油は原油とガソリン、軽油、灯油など石油精製品に大別されることを踏まえると、原油については例年通り400万バレルの輸入が認められた。その圧倒的な供給先は中国であり、中国産出原油は北朝鮮内の製油所で精製され、朝鮮人民軍に優先的に供給される。他方、前述の決議2397により石油精製品は何と50万バレルまで輸入が制限された。この50万バレルと言う数字はそれまで毎年北朝鮮が輸入していた石油精製品の数量に照らし実に89%の削減を意味した。保有外貨が枯渇しかねないという事態が予測される中で、金正恩指導部は形振り構わず違法取引を大々的に行っている感がある。違法取引の実態は2019年3月に公刊された国連安保理事会文書で明らかになった。北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは3月12日に年次報告書(United Nations Security Council S/2019/171 (March 5, 2019.))を公表した。 この報告書は同専門家パネルが2018年2月2日から2019年2月1日までの1年間にわたり北朝鮮に対する経済制裁の監視を通じ策定した報告である。同報告は北朝鮮による制裁逃れが大々的かつ巧妙が行われている実態や核・ミサイル開発が相変わらず継続されている実態を露にしたもので、世界に少なからずの衝撃を与えた。しかも安保理事会の報告書であるだけに、同理事会の常任理事国である中国やロシアなど北朝鮮への経済制裁に消極的な加盟国も簡単に無視できない意味を持つと言えよう。
その中で、同専門家パネルは幾つかの違法取引を指摘した。一つはサイバー攻撃である。北朝鮮が外貨獲得のために大規模なサイバー攻撃を行っている実態が指摘された。パネルとよると、サイバー攻撃を通じ2018年5月にチリ銀行から1000万ドル相当を盗み出したのに加え、同年8月にはコスモス銀行(インド)から1350万ドル相当を盗み出し、香港にある北朝鮮関連会社の口座に振り込んだとされる。また2017年1月から2018年9月の間に、アジア諸国の仮想通貨取引業者に対し5回以上のサイバー攻撃を行い、合計で5億7100万ドル相当の損害を与えたと同パネルは明らかにした。第二は兵器輸出である。北朝鮮はアルジェリア、イラン、コンゴ民主共和国、シリアを始めとする27ヵ国相当の国々に様々な兵器を輸出した可能性があるとパネルはみている。第三は違法輸入である。メルセデス・ベンツ・リムジン、ロールスロイス・ファントム、レクサスLX570といった高級車は奢侈品として北朝鮮に対する輸出禁止対象品目となっている。ところが、2018年6月のシンガポールでの第1回米朝首脳会談や同年9月の第3回南北首脳会談時に金正恩がそうした禁止奢侈品であるメルセデス・ベンツ・リムジンに搭乗した。そして第四が違法海上取引である。朝鮮半島周辺の公海上で北朝鮮のタンカーと第三国のタンカーの間で違法海上取引である瀬取りが大々的に行われている実態に報告書は言及した。同パネルは瀬取りが行われている範囲と規模がこれまで以上に拡大すると共に、瀬取りのやり方が次第に巧妙になっていると指摘した。瀬取りを通じ積み替えされた石油精製品を搭載した北朝鮮タンカーは黄海に面する北朝鮮の南浦(ナムポ)港に帰港し、南浦から北朝鮮各地へと輸送されているとみられる。その意味で、南浦港は瀬取りの拠点となっていると疑惑がもたれている。
2018年を通じ瀬取りが横行したのは石油精製品が激減するという現実に直面し、背に腹を変えられない金正恩指導部が国連加盟国による摘発や抑留覚悟で瀬取りを行っていることを示す。またこれに伴い第三国のタンカーの違法取引の実態も明らかにされた。こうした瀬取りにはいかなる国が関与しているのか。第三国の海運会社は北朝鮮側とどのように連絡を取り合っているのか。またそうした海運会社は単に収益を上げるために瀬取りを行っているのか。それともその背後に第三国政府の何らかの関与といったものがあるのか疑惑視されかねないのである。(おわり)
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