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2019-04-09 00:00
ゴーン再逮捕は弁護人交替も影響か
加藤 成一
元弁護士
金融商品取引法違反(虚偽有価証券報告書提出)や会社法違反(特別背任)の罪で起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者は、中東オマーンの販売代理店に日産資金を不正に支出し、日産に約5憶6300万円の損害を与えたとして、4月4日東京地検特捜部により新たな会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕された。これで逮捕は4度目であり、保釈後の再逮捕は極めて異例である。再逮捕容疑は「日産の代表取締役だった平成27年12月~30年7月、日産子会社中東日産(アラブ首長国連邦)から複数回にわたり、オマーンの販売代理店SBAに計1500万ドルを支出させ、このうち計500万ドル(約5億6300万円)を自己の取得分とし、実質的に保有するレバノンの投資会社GFIへ送金させて日産に損害を与えた。」というものである。
これに対して、ゴーン容疑者側は、「中東日産からオマーンの販売代理店への支出は報奨金であり正当な支出である。」と反論し、「再逮捕は常軌を逸しており恣意的だ」との声明を発表し、弁護人も「再逮捕は非常に不適切で暴挙である。」と強く抗議している。ただ、オマーンの販売代理店への支出に関しては、ゴーン容疑者が会長を務めていた仏自動車大手ルノーの社内調査でも不正の疑いがあるとして、すでにフランス司法当局へ通報したと発表している。今回の再逮捕に係る新たな容疑事実については、今後の捜査により追起訴の有無が焦点となるが、今回の保釈後の再逮捕は、東京地裁が、「人質司法」などの、内外の批判を意識し、まだ中東での資金の流れなど事件の全容解明に至らず、余罪の可能性を含め捜査が終結しておらず、証拠隠滅の恐れも否定できないのに、3月6日に保釈を認めたことが背景にある。保釈は余罪等の捜査中は、捜査に支障があるため、裁判所はこれを認めないのが通例である。したがって、もともと保釈が不適切であったのであり、検察側の衝撃は大きかったと思われる。
それに加え、あくまでも私見であるが、弁護士30年の実務経験から見て、今回の保釈後の極めて異例な再逮捕は、弁護人の交替の影響もあったのではないかと思料される。最初の弁護人は元東京地検特捜部長、最高検公判部長等を歴任した検察エリートの弁護士であったが、二度に及ぶ保釈請求がいずれも却下されたにも拘わらず、新たに「無罪請負人」と称される弁護人に交替するや保釈請求が東京地裁で直ちに認められ、ゴーン容疑者は108日間の拘留を経て3月6日保釈された。このような結果にゴーン容疑者の捜査を担当する東京地検特捜部の検察官がどのように感じたかは想像に難くない。報道によれば、検察上層部は「これ以上の立件は不要」と慎重姿勢を崩さなかったとのことである(4月4日付け産経新聞夕刊)。そうだとすれば、東京地検特捜部としては、余罪等の捜査を終結するか、仮に捜査を継続するとしても、ゴーン容疑者がすでに10憶円の保釈保証金を納付して保釈中であることを考慮し、在宅の任意捜査や在宅の追起訴の選択肢もあったと思われる。
ところが、新たな弁護人による数回に及ぶ日本外国特派員協会での記者会見など、内外の世論や検察批判を味方につける戦略や、素早く保釈を獲得して徹底抗戦する構えなどから、危機感を持った検察側はやむを得ず今回の保釈中の再逮捕と余罪追及に踏み切ったと思料される。もとより、保釈中の再逮捕も刑事訴訟法199条により適法であり、東京地裁の判断にも違法性はない。新たな弁護人は今回の保釈中の再逮捕は「暴挙」であると強く抗議するが、再逮捕はあくまでも東京地裁の決定であり、東京地検の決定ではない。弁護人にとって再逮捕が想定外であり、衝撃の大きさを物語っているのである。もし追起訴があれば、本件のような海外にも及ぶ巨額経済事件は事実関係や証拠関係が極めて複雑多岐にわたるうえ、被告弁護側は無罪を主張して徹底抗戦するであろうから、判決確定までは相当な期間を要するであろう。
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