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2019-03-30 00:00
(連載1)トランプによる追加制裁撤回の背景
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
3月15日に崔善姫(チェ・ソンヒ)北朝鮮外務次官が遠からず大規模の軍事挑発の再開を金正恩・朝鮮労働党委員長が宣言する可能性があるとほのめかして以降、朝鮮半島情勢はにわかに流動的になった感がある。東倉里(トンチャンリ)にあるミサイル発射場の西海(ソヘ)衛星発射場において人工衛星打上げを偽装した長距離弾道ミサイルの発射実験が強行されるのではないかという憶測が表明された。もしも発射実験が強行されるようなことがあれば、トランプ政権としてもそれへの対抗策を真剣に考慮せざるをえないというただならぬ状況へと推移している。
第2回米朝首脳会談の事実上の決裂以降、トランプ政権は金正恩指導部に「完全な非核化」を履行させるために経済制裁の堅持を基本路線に据えている。こうした状況の下で、米財務省が北朝鮮に対する追加制裁の発動に向けて動き出した。3月21日に米財務省は2018年2月以降の北朝鮮による違法海上取引の実態を明らかにした。二社の中国海運企業(大連ハイボ国際貨物、遼寧ダンシン国際運送)を名指しし、北朝鮮の違法海上取引に手を貸したとして制裁名簿に載せたと米財務省が公表した。また北朝鮮の石油タンカーとの瀬取りを行ったか、あるいは北朝鮮産出石炭を輸出したと疑われる数十隻の船舶名簿を米財務省は明らかにした。それによると、違法海上取引に関わった船舶の総数は95隻に及ぶとされる。その内、2018年2月以降、石油精製品の瀬取りには28隻の北朝鮮船舶と18隻の第三国の船舶が関与したとされる。加えて、北朝鮮産出石炭の輸出を行った第三国の船舶は49隻であったとされる。米財務省はこれら95隻の船舶名を公表したが、瀬取りを行った疑いを持たれた第三国の船舶には「ルニス(LUNIS)」という韓国船舶も含まれた。
さらに米財務省は2018年に北朝鮮が第三国から瀬取りを通じ得た石油精製品の総量は378万バレルに及ぶ可能性があると指摘した。この総量は2017年12月に採択された国連安保理事会決議2397により定められた、北朝鮮が輸入を許可された一年当たりの石油精製品の上限である50万バレルをはるかに超過している。3月21日にムニューシン(Steven Mnuchin)財務長官は「・・財務省は我々の制裁を引き続き履行する。北朝鮮との違法取引を隠すため欺瞞戦術を使う海運会社は大きな危険に直面することを我々は明確にする」と力説した。
ところが、こうした米財務省による追加制裁に向けての動きに対し金正恩指導部が間髪入れずに対抗措置に打って出た。22日に開城(ケソン)工業団地内の南北共同連絡事務所から撤収すると一方的に伝えたのである。こうした中で、同事務局の撤収に続き金正恩指導部がいよいよ人工衛星打上げを強行するのではないかとの危惧が表明された。このまま追加制裁を発動すれば、金正恩指導部が人工衛星打上げを偽装した長距離弾道ミサイルの発射実験に打って出る危険性が高いと危機感を抱いたトランプは急遽、動いた。3月22日にトランプは「本日、大規模な追加制裁が北朝鮮に対する既存の制裁に追加されることが米財務省から公表された。私は本日発表された財務省による追加制裁を撤回するよう指示した」とツイッターに書き込んだ。トランプによる追加制裁の撤回指示を受け、「トランプ大統領は金委員長に好意を抱いているから、このような制裁措置が必要でないと考えている」との釈明をサンダース(Sarah Sanders)大統領報道官が行った。これにより米財務省が21日に発表した追加制裁を大統領が取り消すという異例の事態に発展したのである。(つづく)
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