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2019-03-06 00:00
(連載2)決裂に終わった第2回米朝首脳会談
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
トランプの記者会見では金正恩が「制裁の全面解除」を要求したことになっているが、金正恩が求めたのはあくまで一部の解除であったと李容浩は反論した。李容浩の発言の関連部分を引用すると、「・・我々が要求するのは全面的な制裁解除ではなく一部の解除、具体的には、国連制裁決議11件のうち2016年から2017年までに採択された5件、そのうち民需経済や人民生活に支障を来す項目だけを先に解除すべきだということだ」。そうすれば、「・・我々は寧辺のプルトニウムとウランを含むすべての核物質生産施設を米国の専門家の立ち会いのもとで両国の技術者の共同作業により永久に完全に廃棄するというものだ」。このことから李容浩は文言上、「完全な制裁解除」ではなく一部の経済制裁解除を要求したのであり、トランプが金正恩の発言を勝手に誤解したのではないかと反駁したのである。とは言え、李容浩が指摘した問題の5件の安保理事会経済制裁決議は現在北朝鮮に科されている経済制裁の中核部分である。
5件の決議とは具体的には①2016年1月6日の北朝鮮による第4回核実験と2月7日の長距離弾道ミサイル発射実験に対し採択された安保理事会決議2270(2016年3月2日)、②同年9月9日の第5回核実験に対し採択された安保理事会決議2321(同年11月30日)、③2017年7月に二度にわたり強行された「火星14」型ICBM発射実験に対し採択された安保理事会決議2371(2017年8月5日)、④同年9月3日に強行された第6回核実験に対し採択された安保理事会決議2375(同年9月12日)、⑤同年11月29日に強行された「火星15」型ICBM発射実験に対し採択された安保理事会決議2397(同年12月22日)などを指す。これらの決議により北朝鮮の主な輸出品目である石炭、鉄・鉄鉱石、鉛・鉛鉱石、繊維製品、海産物の輸出などが全面禁止されているばかりか、北朝鮮の主な輸入品目である石油精製品の9割近くが北朝鮮に供給されていない。こうしたことから、これら5件の制裁決議の解除は、事実上の「制裁の全面解除」とトランプが感じたとしてもおかしくはない。
しかもトランプが寧辺核施設の外に追加的な核施設の廃棄を求めたとされ、それには応じることはできなかったと李容浩は発言した。李容浩の発言を引用すると、「・・米国側は寧辺地域の核施設の廃棄措置のほかに、もう一つ追加しなければならないと最後まで主張しており、米国が我々の提案を受け入れる準備ができていないことが明らかになった」。李容浩の釈明を崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が補った。崔善姫によれば、「・・歴史的にみても提案したことのない提案をした」。その上で、崔善姫は捨て台詞ともいうべき言葉を吐いた。「・・このような提案を米側が受け入れなかったのは、千載一遇の機会を逃したも同然だ」。以上の双方の記者会見から見えてくるのは、金正恩が廃棄対象を寧辺核施設に限定する一方、上記の5件の安保理事会決議に基づく制裁の解除を要求したのに対し、トランプは廃棄対象には寧辺プラスアルファが必要であるとし、5件の決議に基づく経済制裁の解除は断固受け入れられないとするものであった。寧辺核施設の廃棄に応じてもそれ以外のウラン濃縮施設の廃棄に応じられないという金正恩の主張を踏まえると、金正恩がいうところの非核化とはあくまで寧辺核施設の廃棄であることが明確になった。これでは2018年6月にシンガポールで合意された「完全な非核化」からは程遠いと言わざるをえない。
経済制裁の解除については文言上の食い違いがあるとはいえ、金正恩は事実上、トランプがとても受け入れることができない「全面的な解除」を求めてきた。この点に触れ、ポンペオは3月1日、金正恩は「・・基本的にすべての制裁の緩和を求めてきた・・」と断言し、金正恩側があくまで「全面的な制裁解除」を要求したところに会談決裂の原因があったと改めて示唆した。首脳会談の前には金剛山観光の再開や開城工業団地の再開といった南北経済協力の再開を金正恩が要求してくるだろう推察されたが、まさか安保理事会決議に基づく対北朝鮮経済制裁の中核的部分の解除を要求したことは驚くべきであった。金正恩はオール・オア・ナッシングの賭けに打って出たのに対し、トランプはポンペオとボルトン大統領補佐官の助言を得て取引成立を見送ったことになる。他方、トランプは3月1日、「とても中身のある交渉をした。我々は彼らが何を望んでいるかを知り、彼らは我々が何を手に入れたいかを知った」とツイッターに書き込んだ。実務者協議の場ではなく首脳会談の場において初めて双方の意思と意図を確認することができたとトランプは表現した。金正恩の意図と意思がより明確になったことは今後の米朝協議に向けて必ずしも悪い材料だけではないと言えるであろう。(おわり)
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