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2019-01-12 00:00
不法移民少女死亡のデジャヴ
倉西 雅子
政治学者
南米から押し寄せる大移民団が到着したことで高まるアメリカとメキシコとの国境地帯において、先日、父親と共にアメリカ側に不法入国し、国境警備当局に拘束されていた7歳の少女、ジャックリン・カールちゃんが亡くなるという事件が発生しました。出身国はグアテマラなそうですが、この事件、どこかで既に見たような気がするのです。いたいけな7歳の少女の死に接し、野党民主党、人権団体、並びに、マスメディアは、移民に対して厳しい政策方針を貫いてきたトランプ政権に対して批判を浴びせています。死因ははっきりしないものの、拘束された後に「嘔吐などの症状を訴え、40度以上の高熱を出し、2日後に病院で死亡した」そうです。民主党はこの事件を人道問題として議会で追及する構えを見せており、少女の死の責任は、移民の入国を許可しなかったトランプ政権の不寛容な政策にあると言わんばかりです(もっとも、7歳の少女に食料にも宿泊所にも不安のある危険な旅路への同行を許した親にこそ、第一義的な責任があるのでは…)。
無垢な子供の死ほど悲しみを誘うものはありませんが、この事件は、2015年のドイツのメルケル首相のシリア難民受け入れの経緯を髣髴させます。この時、トルコの浜辺に打ち上げられていたシリア難民少年の痛ましい姿がメディアによって大々的に報じられ、比較的移民に対して厳しい方針を示してきたメルケル首相は、批判の声に応える形で大量のシリア難民の受け入れを表明しました。移民の子供の犠牲がマスメディアを介して人道問題化し、政府に政策転換を迫る展開となったのです
ドイツに見られたこの流れは、今般のグアテマラの少女をめぐる動きと一致しているように思えます。グアテマラの少女の死は、それが偶然であれ、移民受け入れ派に対して、トランプ政権に政策の変更を迫る絶好のチャンスを与えているからです。実際に、メディアは全世界に向けて同事件を深刻な人道問題として報じ、少女の死への同情、並びに、トランプ政権への怒りを誘うよう世論を誘導しています。また、野党民主党も、議会を舞台に共和党に対して国境の壁の建設を断念し、合法的に移民を受け入れるよう要求することでしょう。 もっとも、アメリカとドイツとの違いは、前者が、後者による政策転換の結末を既に知っている点にあります。シリア難民の大量受け入れによってドイツの政治も社会も混乱を来し、未だに収拾の目途が立っていません。保守政党であったCDUは信頼と面目を失って支持率を下げ、反移民を訴える「ドイツのための選択」が躍進する結果を招いています。否、アメリカとドイツの間にはタイムラグがあり、長期に亘って移民問題に直面してきたトランプ政権こそ、既に「ドイツのための選択」の立場にあるのかもしれません。
このように考えますと、メディアや民主党、あるいは、人権団体が政策転換を強く訴えたとしても、トランプ大統領がメルケル首相の轍を踏み、その要求に応じるとは考えられません。不法移民の少女の死をめぐるデジャヴ感がむしろ警戒心を呼び覚まし、今後のアメリカでの展開は、全くメルケル政権の対応とは異なるかもしれないと思うのです。
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