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2018-12-21 00:00
米中貿易戦争の終結は難しい
倉西 雅子
政治学者
米中貿易戦争は、トランプ米大統領の対中提案によって、一先ずは90日間の休戦中にあります。その後の中国側の反応を見ますと、習近平国家主席が打ち上げた「中国製造2025」の戦略を抑制する動きが報告されており、中国による譲歩との憶測も広がっております。こうした中、アメリカのロス商務長官は、「機密情報を盗んだり、技術移転を義務付けたりといった不適切な手段を用いることに反対している。公平な環境である限り、われわれは喜んで中国と正面から競争する」と語ったそうです。アメリカ側の要求の核心はフェアな競争条件の実現であり、この条件が充足されさえすれば、アメリカは中国を敵視しない、即ち、対中制裁関税も撤廃する用意があるということになります。しかしながら、この条件を実現するに当たって、中国の前には、幾重にも高い壁が立ちふさがっているように思えます。
ロス商務長官が具体的な事例として指摘した‘機密情報の盗取’や‘技術移転の義務付け’については、中国にとりましてそれ程難しい課題ではないはずです(もっとも、中国産業界が、この2つの方法によってのみ成長がある場合には、やはり難しい…)。また、しばしば批判を受けてきた自国企業に対する手厚い政府補助についても、あるいは、習主席の‘鶴の一声’で一夜にして廃止されるかもしれません。しかしながら、共産主義国家である中国が、他の自由主義国との間で競争条件を等しくするためには、避けては通れない政治的な難題があります(なお、経済的問題については別の機会に…)。それは、中国の国家イデオロギーである共産主義が正当化している政治と経済との一体性、即ち、共産党と経済との結びつきです。今般、カナダで逮捕され、保釈されたファウェイの最高財務責任者・孟晩舟容疑者の父親であり創業者である任正非氏は人民解放軍の元軍人であり、同社の躍進には共産党のバックアップがあったことは想像に難くありません。アリババのジャック・マー氏も自らが共産党員であることをカミングアウトしましたが、国内市場で成功を収め、グローバル市場でも闊歩している中国企業の全てが、たとえ株式を公開し、民間の株式会社を装いつつも、共産党の‘尖兵’、あるいは、末端組織の役割を担っているのです。近年では、法律によって民間企業に共産党組織を設置することを義務付けており、もはや、共産党との関係を隠さなくなりました。
こうした企業支配に加えて、中国共産党には、公営事業の‘民営化’、外資導入、外国企業の製造拠点の誘致、スタートアップ等、あらゆる経済活動に共産党の利権が組み込まれています。乃ち、中国の経済成長は、これに連動する共産党の利権の増大化をも意味しており、共産党一党独裁体制こそ、内外からマネーが共産党に集まる集金マシーンに他ならないのです。習政権が粛清に利用した‘腐敗撲滅キャンペーン’も、その膨大なる共産党利権の裏返しとも言えましょう。かくして、中国共産党の政経が一体化した利権体質は、競争条件の国際的な平準化にとりましては最大の障壁です。中国の企業とは、官民何れであれ、その活動目的は国家、否、共産党が策定した戦略の実行ですので、ZTEやファウェイの事件で露呈したように、その活動には政治色を帯びています。このため、純粋に消費者志向で事業を行っている他の自由主義国の企業と同等に扱うことはできず、中国は、自国製品が正当な根拠に基づいて外国から排除される原因を自ら抱え込んでいるのです。そして、集金マシーンとしての共産党一党独裁体制にあっては、一切の利権を生まないフェアな自由競争の実現は、私腹を肥やしてきた共産党員にとりましては死活問題となります。もはや、中国市場への参入や事業展開を望む内外の事業者から‘袖の下’やリベートを採ることはできなくなるのですから。
中国とは、徹底的な情報統制のみならず、情報・通信分野の先端技術を用いて国民の財産や消費動向までほぼ完全に把握している国であり、また、政府が組織的に外国製品の不買運動を煽る国でもあります。消費面にあっても、中国が、国民に対して商品・サービス選択の自由を認めるとも思えません。中国企業もまた、消費者のニーズではなく、共産党の顔色を窺うことでしょう。以上の側面から、中国は、共産党一党独裁体制を放棄しない限り、アメリカの要求に応じることはできないのではないでしょうか。米中貿易戦争が終結する時とは、それは、中国において共産党一党独裁体制が、その誕生から1世紀を経ることなく幕を閉じる時なのかもしれないと思うのです。
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