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2018-11-28 00:00
米国のINF全廃条約離脱に日本は関心をもつべきだ
五味 恒和
医療従事者
アメリカの中距離核戦力全廃条約からの離脱は、日本の安全保障上極めて重要なニュースだったのだが、日本では議論が深まることなかった。日本の世論は他国の兵器に対して関心が薄いという特徴があり、自衛隊が保有していない装備ということもあって国民の関心を引き付けられなかった。中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)は、1987年にソ連のゴルバチョフ書記長とアメリカのレーガン大統領の間で締結された一種の軍縮条約である。その主眼は、当時の二大超大国米ソの射程500-5500kmの核弾頭搭載可能なミサイルを全て廃棄し核戦争を抑止することにあった。
歴史を振り返ると、INF全廃条約は、ソ連がRSD-10(SS-20)核弾頭搭載中距離弾道ミサイルを欧州正面に配備したことに対し西ドイツを中心に欧州諸国が強烈な軍事的脅威を訴えたことが契機になっている。ソ連にRSD-10の廃棄を求めたNATOは、核弾頭を搭載したMGM-31中距離弾道ミサイルを欧州に配備することで軍事的緊張を高めた。いわゆるNATO二重決定である。これは短期的にはソ連の激しい反応を招いたが、戦略的には正解であった。紆余曲折を経てソ連とアメリカの間で中距離核戦力全廃条約が結実したのである。この条約がなるまでは、核兵器による第三次世界大戦も現実的なものとして受け止められていた。
こういう経緯を考えると、日本の国防には縁遠い次元の問題に思えるかもしれないが、そうではない。中距離弾道ミサイルはその間合いがちょうど日中・日露の地理的距離にあたる。日本で有名なのは、北朝鮮の白頭山1号(テポドン1)であろうか。日本人にとっては、まさしく開戦劈頭、敵地から発射され自分の頭上で炸裂する代物だ。中距離のミサイルは、核兵器を運搬する最終兵器の印象が強いが、実際には「使える兵器」として配備・使用実績を積み重ねてきている。現に中国は東風-26、北朝鮮は火星10号という中距離弾道ミサイルに通常弾頭を搭載して日本に向けて配備しているし、ロシアも今後、極東で中距離を強化する可能性が高い。そう考えると、今の日本はその備えにつき見直すべきであろう。つまるところ我々日本人が考えなくてはならないことは、世界が「ミサイル無制限時代」に突入することになったという現実についてである。ICBMを全廃する条約すら議論にもならない以上、米ロ間で条約が再構築されることはないし全世界的なINF全廃条約に発展する可能性も皆無だ。
今後INF全廃条約なき世界と東アジアがどうなるかはわからない。アメリカが中距離弾道ミサイルを九州沖縄地方やフィリピン、ベトナムなどに配備もしくは売却すると南シナ海の人工島や中国空母の持つ意味は激変するし、日本が(政治的に可能かは別として)独自に同等の兵器を北海道に配備するのであれば、ロシアは対日戦略を大幅に見直すだろう。そのときに東アジア情勢・世界情勢がどうなるかは全く未知数だが、いずれにせよ、日本にとっては厳しい周辺環境を否応なしに再認識することになる。だからこそ、日本人自身にこの問題を雲の上の話のようには捉えず、当事者意識をもって考えてほしいものである。
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