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2018-11-12 00:00
(連載1)試練を迎えた中国の新聞学院
加藤 隆則
汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
9月、2か月余りの夏休みを終え、勤務する中国の汕頭大学新聞学院(ジャーナリズム学部)に戻った。新入生を迎える準備で大忙しだ。亜熱帯地方で日差しが厳しいが、下から横からと熱気に包まれる東京の暑さに比べれば、緑が多い分、過ごしやすい。東京では連日、自宅近くの図書館に通い、新学期の準備をした。中国の新聞学院は本来、記者養成の機関だが、メディア環境の変化によって、存在意義が問われ、生き残りの試練に立たされている。教師は学生以上に学ばなければ取り残されてしまう。中国共産党は剣(軍事)と同様に、ペン(宣伝工作)を重んじ、その伝統が今に引き継がれている。「党の喉と舌」となる人材を育てる新聞学院は、非常に高い位置を与えられた。中国の主要大学にはもれなく新聞学院が設置され、様々な報道機関に人材を輩出してきた。
だが、インターネットの発展によって新聞やテレビといった伝統的メディアの足元がぐらついている。いまだにメディアが戦時体制の寡占状態に守られている日本とは異なり、中国は市場化の進み方が激しく、紙媒体は続々と淘汰されている。新聞学院でももはや紙の新聞を目にすることはない。日本ではしばしば、党や政府の意向を代弁した中国メディアの報道が伝えられるが、実を言うと、そうした官製報道を目にしている学生はほとんどいない。新聞購読者は皆無で、みな携帯のSNSを通じて多種多様なニュースに接し、時には自ら発信者となっている。こうした双方向の情報受発信が一般化するにつれ、従来の記者像に大きな変化が起きるのは避けられない。
伝統的メディアは就業の機会も減り、そもそも希望者が激減している。待遇も決してよくはなく、業界の発展も望めない。新聞学院の試練もそこから来ている。6月の卒業と同時に新聞社に就職した卒業生からは、早くも不動産業界に転職したとの知らせが届いた。集権化を徹底させる習近平政権は、当然のことながら言論・イデオロギー統制も強化しており、「党の喉と舌」を担う官製メディアの画一化が際立つ。簡単に言えば、新聞は『人民日報』、通信社は『新華社通信』、テレビは『中国中央テレビ(CCTV)』のそれぞれ1社があれば十分だ、ということになる。あとのメディアは、せいぜい補助の役割しか担わされない。
ネットに進出しても、ニュースはもうからないので、多数のアクセス数を稼ぐことのできる娯楽性の強い映像が幅を利かせる。専門性は度外視されるので、記者の就業機会が狭まるのはやむを得ない。こうした情勢を受け、各大学の新聞学院は、伝統的な記者養成のカリキュラムを変更し、ネットでのニュース発信を想定した「新媒体(ニューメディア)」学科を増設している。御多分に漏れず、私が籍を置く広東省の汕頭大学新聞学院でも、従来のジャーナリズム、映像、広告の各学科に加え、「インターネット・ニューメディア学科」が誕生した。募集枠もいきなりジャーナリズム学科を超えた。(つづく)
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