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2018-11-05 00:00
国による行政不服審査請求「適格性」の法理
加藤 成一
元弁護士
石井啓一国土交通大臣は、平成30年10月30日米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に関し、沖縄県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回処分の効力を一時停止した。これは、国(防衛省沖縄防衛局)が10月17日行政不服審査法2条及び25条に基づき、国土交通大臣に対して承認撤回の取り消しと執行停止を求めた行政不服審査請求に基づくものである。同大臣は効力停止の理由として「工事を行えない状態が継続すれば経済的損失のみならず、普天間飛行場周辺住民らが被る危険性の除去や騒音などの被害防止の早期実現が困難になる。」(10月31日付け「産経新聞朝刊」)と述べた。これは普天間飛行場の早急な危険性除去等の観点からしても妥当な判断であると言えよう。効力停止決定を受けて沖縄県の玉城デニー知事は、10月30日「結論ありきで法治国家にあるまじき対応だ。」と反発し、近く国地方係争処理委員会に不服を申し立てる意向を示した(前掲新聞)。
今回埋め立て承認の撤回をした沖縄県の玉城知事や、共産党などの一部野党、普天間飛行場の辺野古移設に反対する行政法学者・研究者らは、いずれも、行政不服審査法は一般国民の権利救済を目的とするものであり(同法1条1項)、国はその「固有の資格」で処分を受けたから不服審査請求をする「適格性」はなく違法であり、法制度の乱用であると批判している。これに対して、上記効力停止決定では、「適格性」について、「審査請求をなし得る者は、行政庁の処分に不服がある者であり(同法2条)、申立人のような国の機関であっても、<固有の資格>においてではなく、一般私人と同様の立場で処分を受けたものであるから、当該処分について審査請求をなし得る。」(10月30日付け効力停止決定書)と判断している。
この判断は、仲里利信衆議院議員の「国が行政不服審査請求を行うことの適格性等に関する質問主意書」に対する平成27年7月21日付けの閣議決定された「政府答弁書」の見解と同じである。同答弁書は「一般私人と同様の立場において処分の相手方となる場合には、不服審査請求ができるものと考える。」と答弁している。今回の不服審査請求において、国は「私人と同様の立場」の理由として、国は仲井真元知事から通常の事業者と同じ手続きで埋め立て承認を得たことを指摘している。確かに、公有水面埋立法42条によれば、たとえ国であっても、埋め立てには県知事の承認が必要とされており、この点においては一般私人と変わりはない。そうすると、国は、埋め立て承認を得たのちに今回承認撤回処分を受け不利益を被ったのであるから、当該処分について一般私人と同様の立場で行政不服審査法2条に基づく不服審査請求が可能であるとの法解釈も不合理とは言えないであろう。
ところで、日本の行政法学の権威であり元最高裁判事の藤田宙靖東北大学名誉教授は、平成8年9月17日法務省訟務局での「行政主体相互間の法関係」に関する講演で、「我国の実定行政法においては、行政上の権利義務の主体である行政主体と私人という単純な二元論のみでは成り立っていない。様々な法律・法制度では各種の行政主体が私法上の財産管理行為にとどまらず、通常の私人と全く同じ法的立場で他の行政主体との法律関係に入るケースが広く登場している。ドイツやフランスの行政法学でも同じであり、国が行政主体でありながら、私人と同様の法的立場に立つことが広く認められている。行政主体と私人を区別する概念として<固有の資格>があるが、固有の資格は、法律がその事業等の規制にあたり、私人であるか行政主体であるかを区別せず、同じ規制で行っているかどうかで判断すべきである。」と述べておられる。「固有の資格」に関する上記判断基準は合理的であり、本件についても適用し得る「法理」と言えよう。したがって、公有水面埋立法42条に基づき国が一般私人と同様の手続きを経て県知事の埋め立て承認を得たのちに、後任の県知事から承認撤回処分を受けた以上は、一般私人と同様の立場での行政不服審査請求も法的に可能であると解すべきであろう。ただ、この点に関する最高裁判例は存在しない。
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