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2018-11-01 00:00
「元徴用工」判決が生む無際限なリスク
松田 純
法科大学院生
韓国の元徴用工が新日鉄住金に損害賠償を求めていた裁判の結果に、多くの日本人が衝撃を受けたに違いない。韓国最高裁は 10月30日、ひとりにつき1億ウォン、日本円にしておよそ1000万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。韓国の最高裁判事らは、自分たちが確定させた判決が日韓関係を土台から破壊する効果を持つことを当然理解しているであろう。法曹というものは、駆使する国内法こそ各国固有のものであれ、習得しているそのリーガルマインドに関して言えば国境を超えて普遍性があるものである。少なくとも私はそう信じてきたが、最高裁が確信犯的に政治的影響力を行使せんとしたとしか思えない今回の判決はそうした期待を破壊された思いである。
いわゆる「徴用工」問題自体について語ることはしないが、少なくとも法学上明らかなのは、1965年に締結された「請求権・経済協力協定」によって「完全かつ最終的に解決された」同問題については条文上の多義性も一切なく、解決済みとする日本政府(更には韓国政府)の解釈はゆるぎようがない。また、今回の韓国最高裁の判決を養護する第三国は一切いないであろう。そのようなことが認められれば、条約による請求権の確定が死文化されてしまい、かつての列強と旧植民地との外交関係は抑制が効かなくなってしまうからだ。外交上も、同協定に基づき日本政府は韓国政府に総額5億ドルの経済協力を実施し、韓国政府がこの資金を運用して徴用で死亡した人にひとりあたり30万ウォンを支給した歴史的事実があり、日本の道義的責任は果たされたと言えるだろう。
左派の盧武鉉大統領ですら、「徴用工」問題を外交問題化できないか検討を行ったが同協定の法的な効力を否定することはできず「解決済み」と結論づけている。つまり、「徴用工」問題を法律的に蒸し返すことは明らかに無理筋なのである。ところが本判決では、日韓併合条約を「国際法に反する強占」と一方的に断じ、「植民地支配に基づく不法行為などは請求権協定の対象に含まれない」とし、新日鉄住金に賠償を命じたのである。この論旨の意味するところは、日韓併合後に日本の資本によって行われた朝鮮半島でのあらゆるビジネスが不法行為と認められる状況が生まれたということである。字義通りに解釈すればあらゆる朝鮮半島住民が損害賠償を求める請求する道筋ができたと言えよう。戦前から続く歴史ある日本企業は軒並み無歳限の損賠リスクを負わされることになる。
韓国最高裁の確定力が及ぶのは韓国国内に過ぎず、新日鉄住金の日本国内の資産が差し押さえられたりすることはないが、韓国国内に資産があればそこから補償を強いられることになろう。だが、司法府自体には執行力はないため、新日鉄住金が自主的に原告に補償するでもしなければ、行政府が判決に基づいて強制執行を行うことになる。そうなれば、韓国政府が矢面に立つ事になり日韓両政府間で紛争が生じることになろう。それを踏まえて、同協定には、「協定の解釈及び実施に関する紛争は、まず外交上の経路を通じて解決する」とする条文があることを思い出されたい。最高裁からの無理筋な援護射撃を受けて青瓦台がどう動くのだろうか。合理的に考えれば協定に基づいて韓国政府が新日鉄住金に代わり「再」救済するのが穏当であろう。他方、日本が国際法上明らかに有利であるからと言って法律論で押し切ろうとすると足元を救われかねない。第二次世界大戦絡みでは日本は世論戦で失敗しがちである。日本政府が「毅然として対応」し国際世論を味方につけることが肝要だ。本判決で日韓関係は極端に悪化するであろうが、可能であれば早期に日韓両政府が「外交上の経路を通じて解決」することを望む。
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