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2018-10-19 00:00
古色だったビットコインの発想
倉西 雅子
政治学者
ビットコインと言えば、金融工学の最先端から誕生した新時代の通貨というイメージが先行しています。このため、‘新しもの好き’の人々が飛びつき、値上がりを期待した投機の対象となっているのですが、この現代のコイン、案外、その発想は旧式なのではないかと思うのです。何故、ビットコインが古色であるのかと申しますと、第一に、そのモデルは、紙幣の誕生以前にあって希少金属から鋳造された硬貨にあるからです。ビットコインの獲得には、大量の電力消費を伴う‘マイニング’に成功する必要があります。言い換えますと、この‘マイニング’こそ、金や銀といった希少金属の採掘を意味しており、‘マイニング’に従事している人々は、古来の採掘事業者と変わりはないのです。違っている点があるとすれば、前者の事業者は、難題を解くためのITの専門知識と電力コストを負担し得る資金力を備える必要がありますが、後者は、世界各地で起きてきたゴールドラッシュに見られたように、鶴嘴を持参すれば身一つでも誰もが参加することができる点等です(ただし、個人が採掘した金塊は硬貨鋳造事業者や政府に売却する必要があった…)。
第二の理由は、その有限性にあります。しばしば、ビットコインのプラス面として、ビットコインの初期設定において発行高が予め決められており、通貨価値の下落リスクがないとする説明が為されています。今日、凡そ全ての諸国や地域が採用している管理通貨制度にあっては通貨発行の量的枠が存在しないためにインフレを起こし易く、インフレリスクにおいてビットコインは遥かに安定的な資産であるとされているのです。しかしながら、ビットコインの有限性は、プラス面であると同時にマイナス面でもあります。何故ならば、インフレは起きなくとも、発行高が設定された上限に達すれば、深刻なデフレ=通貨不足が発生する可能性が極めて高いからです(もっとも、実際にビットコインが決済通貨として一般に流通しなければ、この問題は発生しない…)。この有限性に基づくマイナス面は、金や銀といった硬貨との共通点でもあります。
以上に主要な二つの旧来の硬貨との共通点を挙げて見ましたが、これらの諸点は、ビットコインの限界をも示しています。中世にあって、ヨーロッパは、東方貿易における赤字により金銀の流出に直面しており、貨幣不足が経済の停滞を引き起こしていました。この難局を打破したのが紙幣の発明であり、確実なる支払いが約束されている信用性の高い手形、金匠の預り手形、並びに、金兌換の保障の下で金融機関が発行した銀行券等が紙幣として流通し、市中の貨幣不足を補ったのです。紙幣の登場は、必ずしも希少金属資源に恵まれていたわけではなかったヨーロッパの急速な経済な発展を支えることとなりますが、それでは、ビットコインを準備とした紙幣発行はあり得るのでしょうか。金や銀といった希少金属は、実体を有する‘もの’であり、それ自体が使用、並びに所有価値を有します。それ故に、金本位制や銀本位制も成り立つのですが、ビットコインには、こうした通貨としての価値を支える多重的な裏付けがありません。
そもそも、ビットコインには発行元となる中央銀行も存在せず(もっとも、中央銀行が発行するのは公定通貨としての銀行券であり、硬貨を発行する権限は政府にある…)、一定のビットコインと交換価値を持つ‘ビットビル’や‘ビットノート’といった‘ビット紙幣’を発行することはできないはずです。あるいは、民間金融機関が自らが保有するビットコインを準備として独自に各種紙幣を発行するという方法もあるのでしょうが、‘無’から生じたビットコインには価値の裏付けがないに等しいため(各国が発行する信用通貨の価値を支える総合的な国力とは違い、‘マイニング’という私的で個人的な労力は信用価値を生まない…)、これを元にした‘ビット紙幣’が広く一般に決済通貨として流通するとも思えませんし、単一通貨でもありませんので両替のコストもかかります。このように考えますと、ビットコインは、金貨や銀貨よりも紙幣創造力において劣っており、ビットコインの限界を越えるためのビット紙幣の登場は、夢のまた夢なのかもしれません。ビットコインから生まれたフィンテックについては、金融テクノロジーの一つとして将来的に活用されることはありましょうが、少なくともビットコインについては、リスク回避のためにも、政府であれ、個人であれ、その限界を知ることは重要なのではないかと思うのです。
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