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2018-09-06 00:00
「辺野古埋め立て承認撤回」は法的根拠に乏しい。
加藤 成一
元弁護士
沖縄県は8月31日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関する仲井真前沖縄県知事による公有水面埋立法に基づく埋め立て承認を撤回した。行政行為の撤回とは、行政行為後に義務違反や公益上の必要性など新たな事由が発生した場合に、将来にわたりその効力を消滅させる行政行為である。沖縄県は撤回の理由として、(1)国は埋め立て承認に付した工事の実施設計や環境保全対策に関する留意事項に基づく事前協議を行わず工事を開始した、(2)辺野古大浦湾の軟弱地盤の存在、埋め立て予定地の活断層の存在、高さ制限を超える建築物の存在、辺野古基地が造られても別の滑走路を用意しなければ普天間基地が返還されないこと、がそれぞれ埋め立て承認後に明らかになった、(3)埋め立て承認後に策定したサンゴやジュゴンなどの環境保全対策に問題があり環境保全上の支障が生じる、と主張している。沖縄県による承認撤回に対して、国(防衛大臣)は行政不服審査法に基づき、処分庁沖縄県の上級行政庁である国土交通大臣に対して、不服審査請求ができる(行政不服審査法2条、4条3号)。国土交通大臣は必要があると認める場合は、執行(撤回)の停止ができる(同法25条2項)。さらに、国は行政事件訴訟法に基づき沖縄県に対して、撤回の取り消しを求め、行政訴訟(抗告訴訟)が提起できる(行政事件訴訟法3条、9条1項)。撤回により重大な損害が生じる場合は、裁判所は執行(撤回)の停止ができる(同法25条2項)。
沖縄県主張の撤回理由の(1)については、仮に何らかの「手続き違反」があったとしても、それによって沖縄県に重大な被害や損害が発生したかどうかが問題であり、そうでなければ撤回理由には当たらない。沖縄県はかねてより「辺野古移設工事絶対反対」の立場であり、国と対立して事前協議においても移設工事を阻止妨害し、国に協力することはあり得ない点も考慮されるべきである。撤回理由の(2)の「軟弱地盤」については、仮に「軟弱地盤」が存在するとしても、土木建設工事上の技術的問題として解決可能であり、撤回理由には当たらない。「軟弱地盤」による撤回を主張する以上は、沖縄県において技術的に移設工事自体が不可能であることを証明しなければならない。軟弱地盤対策として、シート工法、パイルネット工法、サンドドレーン工法、バーチカルドレーン工法、ジオグリッド工法、サーチャージ工法、ジオテキスタイル工法など、様々な土木建設技術上の工法があるのは周知のとおりである。
撤回理由(2)の「活断層」については、もともと移設工事自体に反対する一部の学者が主張しているものであり、「活断層」の存在は現時点では「疑い」にとどまり、証明されていない。仮に存在したとしても、基地の重要施設については耐震構造の強化により解決可能であり、撤回理由には当たらない。撤回理由(2)の「高さ制限」や「返還条件」については、米国側との協議によって解決可能であり、撤回理由には当たらない。撤回理由(3)の「環境保全」については、本件に関する2016年12月20日付け最高裁第二小法廷判決(民集70巻9号2281頁)でも、審理の対象になっており、埋め立て承認につき環境保全対策にも特段不合理な点はないと判断しているから、撤回理由には当たらない。このように見てくると、沖縄県主張の撤回理由は、いずれも撤回理由には当たらないから、撤回で生じる移設工事遅延による米国との外交安全保障上の不利益や、普天間飛行場の返還遅延による不利益と、撤回で生じる沖縄県の公益上の必要性を比較衡量した場合に、沖縄県側の公益上の必要性の方が大きいとは到底認められないであろう。
上記最高裁判決は、公有水面埋立法4条1項1号の「国土利用上適正かつ合理的であること」については、普天間より面積が縮小される、住宅地上空の飛行が回避される、埋め立ての規模及び位置につき社会通念上明らかに妥当性を欠く事情は認められない、との理由で適正かつ合理的と認定している。また、同法4条1項2号の「環境保全及び災害防止」に適合するとした仲井真前知事の判断に特段不合理な点はなく違法性は認められないと認定している。以上の通り、本件「撤回理由」はいずれも法的根拠に乏しく、「無理筋」であり、行政訴訟では到底容認されないであろう。のみならず、本件に関し、公有水面埋立法に基づく仲井真前知事による埋め立て承認に違法な点は認められないとした上記最高裁判決が確定し存在するにもかかわらず、法的根拠に乏しい理由により敢えて承認撤回をし、移設工事を遅延させた場合は、職務執行における故意または重大な過失による知事権限の乱用として違法性を帯び、沖縄県知事個人並びにこれに加担した場合は、副知事など県職員個人にも共同不法行為として、法的に移設工事の遅延による莫大な損害賠償責任が発生することは否定できないのである(2015年12月22日付け東京高裁国立市元市長3123万円損害賠償責任認容判決=判例時報405号18頁。2016年12月13日付け最高裁第三小法廷上告棄却決定により確定)。
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