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2018-08-29 00:00
(連載2)米中貿易戦争は米国農業が変わるチャンスか
倉西 雅子
政治学者
価格競争において優位にあるアメリカ農業が輸出志向であることは理解に難くはないのですが、輸出志向を国内向け生産へと転換することも、上述した自由貿易の欠点を是正する一つの方法となるかもしれません。
近年、アメリカでは健康ブームが起きており、国民の間で食に関する関心が俄かに高まっているそうです。ところが、新鮮な野菜やくだもの、あるいは、有機栽培された穀物等を日常的に買うことができるのは、一部の富裕層や中間層に限られており(もっとも、今日、中間層は大幅に減少…)、一般の国民は、安価なジャンクフードや大量生産された加工食品に頼った食生活に甘んじざるを得ないそうです。この結果、肥満やメタボリックシンドロームに悩まされ、健康寿命や寿命にまで悪影響を与えているのです。その理由は、健康の維持に役立つ付加価値の高い農産物の価格が高いことに依りますが、アメリカの農業形態の大規模志向、並びに、農業のシステマティックな大量生産に基づく‘製造業化’もまた、その原因に挙げることができます。
こうした現状からしますと、アメリカ国民の大半が健康的な生活を送るためには、内需志向の農業改革は、実のところ、避けては通れない課題なのかもしれません。米中貿易戦争の煽りを受けて余剰となる大豆なども、危機をチャンスに変えてその健康効果をアピールし、アメリカの消費者の嗜好に合った製品を開発すれば(ダイズ・バーガーや豆乳ミルク製品など)、国内需要を喚起することができます。また、さらなる構造改革としては、従来の大規模経営から中小規模経営への積極的なシフトを図ると同時に、健康維持効果の高い多様な作物を安価で生産し(穀物よりも単価は高いのでは…)、都市部への迅速な流通も実現すれば、アメリカ国民の食生活も健康状態も大幅に改善されることでしょう。
輸出農産物については、気候や土壌によってアメリカでしか生産できない特産品に特化すれば、自由貿易の破壊力をも抑制することもできます。貿易が相手国の生産者を犠牲にすることなく相互の利益となるためには、国内産業の転換をも組み入れた、内外調和型の改革が必要なのではないかと思うのです。(おわり)
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