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2007-04-10 00:00
中国の新たな外貨準備運用機関は必要か
村上正泰
日本国際フォーラム研究主幹
最近、中国において、外貨準備の一部を運用する新たな機関を設置するとの計画が示された。1兆ドルを超える巨額の外貨準備はこれまで国家為替管理局が一括管理してきたが、一部報道では、そのうち2000億ドル程度が新機関で運用されるようになるのではないかと推測されている。なぜ新たな運用機関を設置するのかといえば、米国債に偏重することなく、外貨準備の運用先を多様化させるためであると考えられる。しかしながら、新機関の設置にどこまで合理的な理由があるのかといえば、疑問が残る。
温家宝首相は、記者会見において「米ドルに悪影響を与えない」と述べているが、もし本当にそうだとすれば、わざわざ新機関を設置する意味がない。米ドルに悪影響が出ないということは、外貨準備を現状と同じように運用するということにほかならないからである。もちろん温家宝首相の発言は文字通り受け取るべきものではなく、対米配慮からの弁解なのかもしれない。しかしながら、たとえそうであったとしても、新機関設置に問題なしとはいえない。
というのも、巨額の外貨準備を米国ではなく他のアジア諸国に還流するといっても、マクロバランスでみて、そのような状況にはないからである。すなわち、中国の経常収支黒字が増加する一方、他のアジア諸国においても経常収支は黒字である。主たる例外はインドであるが、その経常収支赤字は大した規模ではない。全体としてみるならば、中国以外のアジア諸国は、ネットベースで中国からの資本流入を必要としていないのである。もし中国の外貨準備をアジア域内に還流することに意味が出てくるとすれば、こうしたマクロバランスに変化が生じた場合であり、そのためにはマクロ政策の大幅な変更を伴わざるを得ない。
果たして中国政府は、マクロ政策協調の可能性まで含めて、新たな外貨準備運用機関を設立しようとしているのか。もちろん近年の国際経済における最大問題であるグローバル・インバランスの解決の道筋を考えようとすれば、米国とアジアを巻き込んだ形でのマクロ政策協調が必要であり、その限りであながち筋違いの話でもない。しかし、各当事者にとって現状があまりに心地よいものであるがゆえに、マクロ政策協調に向けた具体的議論を行う状況には立ち至っていない。少なくとも現状においては、新たな外貨準備運用機関の必要性には疑問があると言わざるを得ない。
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