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2018-08-10 00:00
AIは政治判断よりシミュレーションが向いているのでは?
倉西 雅子
政治学者
AIの急速な技術的進歩を受けて、近年、AIを政治に利用しようとする動きも強まっております。生身の人間とは違い、個人的な感情や私的利害関係に左右されませんので、中立的な立場からの公平な政治判断が期待されているのです。しかしながら、その一方で、AIによる政治には重大な問題点が山積しています。AIもコンピューターの一種ですので、入力データに偏りや誤りがあれば適切な判断は困難ですし、ソフト設計の段階でも、一定の政治的バイアスがかかる可能性があります。加えて、民主主義の観点からすれば、国民の政治参加の権利を奪いかねなませんし、AIの判断に対して誰が最終的な責任を負うのか、という問題も発生します。こうした諸点からしますと、AIに政治を任せるのは、AI、あるいは、その作成者に支配されかねない極めて危険な行為なのですが、仮に、AIを政治においても活用しようと考えるならば、それは、政策の効果や結果を予測するシミュレーションの分野なのではないかと思うのです。
特に、多様な要因が連鎖的、かつ、複雑に絡み合う経済分野において、AIは、その能力を発揮するかもしれません。何故ならば、人には把握能力に限界がありますので、連鎖的影響が広範囲に及び、かつ、時間的経過による変化をも考慮しなければならない問題については、あらゆる要素を連鎖的な関連性を以って取り込めるAIの方が予測能力に優れている可能性があるからです。しかも、違った条件や状況の下でのシミュレーションを行うこともできますので、AIは、政治判断のように、必ずしも絶対的な一つの解を示すわけでもなありません。
そして、特にAIシミュレーションで重要となるのは、その能力の高さが、現実のメカニズムの再現性、あるいは、模擬能力によって評価される点です。つまり、個人的、あるいは、政治的な偏向を排し、経済のメカニズムを忠実に再現してこそ、AIには、シミュレーションを任せる価値があるのです。例えば、頑迷な自由貿易主義者やグローバリストが主張するように、全世界の国境を完全に取り払った状態をシミュレーションさせるとしますと、AIは、全てが混沌化した人類の悲惨な未来を描き出すかもしれません(各国におけるプラス・マイナスの偏在をも予測…)。政治家は決してこのような想定未来図を口にはしませんが、高い再現性を備えたAIは、いたく正直に人類に‘その先の姿’を告げるかもしれないのです。もっとも、AIのシミュレーションに対して人々が信頼を寄せるには、ソフトのプログラムを公開するなど、透明性を確保する必要はありますが…。
シミュレーション利用であれば、人が政治判断を行う際の材料を提供するに過ぎず、AIに支配される心配も解消されます。AIを政治に利用するならば、判断型よりもシミュレーション型の方が有益であり、かつ、リスクも低いのではないでしょうか。AIは人類の味方なのか、敵なのか、それは、このテクノロジーをどのように利用するかにかかっているのではないかと思うのです。
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