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2018-07-24 00:00
大飯原発弁護団の「上告回避戦術」は司法判断を混乱させる
加藤 成一
元弁護士
福井県おおい町の周辺住民が関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを求めた訴訟の控訴審判決が7月4日名古屋高裁金沢支部で言い渡され、運転差し止めを認めた第1審福井地裁判決を取り消し、住民側の請求を棄却した。判決理由は、「(1)原子力規制委員会が定めた新規制基準に不合理な点はなく、本件3、4号機が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断にも不合理な点は認められない(2)関西電力が策定した基準地振動が過小とはいえない(3)本件3、4号機の危険性は社会通念上無視し得る程度にまで管理・統制されている(4)本件3、4号機に原告住民らの人格権を侵害する具体的危険性はない。」というものである。2014年5月21日の第1審福井地裁判決は、関電側による「地震学の理論的最大数値である700ガル(「ガル」は地震の揺れの大きさを表す単位)を超える地震が到来した場合を想定し、それに応じた様々な安全対策をとっており、これらの安全対策に基づくイベントツリー(原発など大規模且つ複雑なシステムを対象とするリスク評価手法)記載の対策を順次とっていけば、1260ガルを超える地震が来ない限り、炉心損傷には至らず大事故に至ることはない。」との主張に対して、最新の地震学による関電主張の上記科学的知見には基づかず、過去の他の地域における地震発生事案を理由に、「大飯原発地域においても1260ガルを超える地震発生の可能性があり、関電側の安全対策は楽観的見通しによるものであり、原発災害は憲法上最も重要な価値を持つ人格権を奪うものであるから、その具体的危険が万が一でもあれば原発の運転を差し止めるのは当然である。」と判示して運転差し止めを認めた。
これに対して今回の控訴審判決は、「新規制基準は専門家が参加し最新の科学的・専門技術的知見に基づくものであり不合理な点はない、大飯原発の基準地振動や基準津波は最新の科学的知見と手法を踏まえて策定され安全に配慮して保守的に設定されている、さらに、対象となる活断層の断層面積は詳細な調査を踏まえて保守的に大きく設定され、関電の策定した基準地振動が過小とは言えない、そのうえ、安全上重要な設備の耐震性、耐津波安全性、重大事故対策などは最新の科学的知見と手法を踏まえて講じられている、したがって、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点はない、このため、大飯原発の危険性は社会通念上無視し得る程度にまで管理・統制されており、住民の人格権を侵害する具体的危険性はない。」と判示して運転差し止めを取り消した。最高裁も「原子炉施設の安全性に関する審査及び判断は極めて高度な最新の科学的専門技術的知見に基づいてなされるから、それらに看過し難い過誤、欠落、不合理な点が無ければ、行政庁の判断を尊重すべきである。」(四国電力伊方原発訴訟平成4年10月29日第一小法廷判決。民集46・7・1174)と判示している。
今回の控訴審判決の判決理由は、上記最高裁判例にも適合し、最新の科学的知見に基づき合理的且つ論理的で説得力があり、妥当な判断であると言えよう。これに反して、第1審福井地裁判決は、独自の見解に依拠して最新の地震学による科学的知見である理論的基準地振動を無視し、いわば100%の安全性を求めたものであり、到底科学的合理的とは言えず情緒的独善的であり、「反原発イデオロギー」に強く影響されたものと言う他ない。最高裁においても到底認められないことは明らかである。そのため、控訴審判決後、弁護団の一人は「最高裁で負ければ全国の脱原発運動にとって逆風になる。」と言い上告は難しいとの見方を示したと報道されている(2018年7月5日付け「毎日新聞」東京朝刊)。この報道の通り、弁護団は最高裁に上告しなかったので、住民側敗訴判決は確定した。
弁護団自身も自らの主張が最高裁において到底認められないことを自認しているのである。しかし、三審制をとる日本において、いかに上告棄却が確実であるからとは言え、国家的社会的影響力が甚大な重要事件において「上告回避戦術」をとることが果たして許されるのであろうか。三審制の否定ではないのであろうか。訴訟が脱原発運動の手段であるとしても敗訴した原告住民並びに多数の地域住民の意思に反しないのであろうか。のみならず、原発訴訟に関する数々の最高裁判決が確定してこそ全国各地の裁判所によるバラバラな司法判断の混乱が防止され、法的安定性が確保されるのであり、大飯原発弁護団による「上告回避戦術」は原発に関する司法判断の混乱と不安定化をもたらし、ひいては日本の原発政策にも重大な影響を与える。大飯原発弁護団には法曹経験者としても強く反省を求めたい。
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