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2007-04-08 00:00
連載投稿(2)FTAAPの並行推進を
山澤 逸平
一橋大学名誉教授
私はバーグステン所長と異なり、東アジア地域主義の高まりを否定的には捉えない。それには次のような特徴がある。まずその基底にASEANの統合努力がある。AFTAが具体的な始まりだったが、アジア危機以後徐々に強化されて単一市場化が進み、1月のセブ会議ではASEAN共同体への展望、ASEAN憲章の採択が合意された。
第2にアジア危機の回復過程でASEAN+3に拡大された。それも通貨・金融協力に加えて、貿易・投資自由化にも及び、中・日・韓それぞれのASEANとの、いわゆるASEAN+1方式のFTAが進んだ。中・韓はすでに締結済みで、日本も交渉を急いでいる。その延長上にASEAN+3の東アジアFTA(EAFTA)が長期目標となった。またセブ会議でもたれた中日韓3国首脳会議で3国投資協定の締結交渉促進に合意した。これは中日韓FTAの前段階とも言うべきもので、EAFTA実現の基盤となる。
第3にこのグループは開かれた貿易・投資体制を保たざるをえない。各国とも米・豪・EUとの貿易への依存が高く、ASEAN、中国も外国投資に依存した発展をしてきた。各種のASEAN統合措置も外資誘致が主目的で、米・豪・EU企業にも開かれている。豪州も米国もEAFTAには含まれないが、締結済みの2国間FTA(豪はシンガポール・タイと、米国はシンガポール・タイ・韓国と)を通じて自国企業の東アジアへの参入を支援できる。
第4に、2005年からASEAN+3にインド、豪州、ニュージーランドを加えた東アジア首脳会議(EAS)が開始され、広範な新しいタイプの地域協力のネットワークができた。この3国ともASEAN+1方式のFTA交渉を行っており、EAFTAはEASFTAへ拡大する展望まで取りざたされている。
ASEANのみならず、日本も中国も東アジア地域統合化へコミット済みで、セブ会議で合意された路線(ASEAN主導を中日韓3国協調で補完する)で進む。2015-20年にはFTAAPを抵抗なく受け入れる自由化段階に達するであろう。しかしWTO体制が弱体化し、地域主義化のみが進行すると、世界経済のEU,米、東アジアを中核とする三極、ないしはそれ以上の多極分化が進みかねない。それを止めるにはWTO体制強化のプランBが必要だというバーグステン所長の主張に賛成である。ベストはもちろんDDA交渉を小さいながらも今年中に成功させ、さらに強化させる次の交渉をセットすることである。しかし過去5年間の難交渉に主要メンバーは飽きて、新ラウンドに取り掛かるモーメンタムは高くはない。
モリソン議長の「実現性の高い2007年貿易課題」はDDAの成功を手がかりにボゴール目標にできるだけ近づけようというものだが、DDAが失敗したり、2008年以降に延期された場合、ボゴール目標の自由化分野はほとんど進まない。私は1997年以降のAPECの活動をまったくの失敗とは考えない。自発的自由化方式で自前の自由化推進力はないが、円滑化や能力構築ではWTOに先んじて地道に成果を挙げてきた。2010年の中間展望(mid-term stock take)は続けるべきだが、それだけではWTO体制強化への貢献は弱い。
こうした中でFTAAPの議論を、それを可能にするためのより拘束的な自由化方式の採用も含めて、APECが公式に始めることは、その実現が政治的困難が大きいとしても、その明瞭な経済効果から一定の衝撃を与えることはできよう。FTAAPの議論の中で、太平洋を越えての不均衡是正や、貿易摩擦激化の防止、東アジア地域統合の開放性の維持等も合わせて議論してゆく。これらは「実現性の高い2007年貿易課題」の中でもできることだが、それだけではプランBとはなりえない。これまでもそうであったように、米国の関心を引き付け、国内の保護主義を抑制することはできない。東アジアではFTAAPはEAFTAの延長上でのみ考えて、今FTAAPを取り上げることには慎重である。しかしWTO体制の締め付けの弱い現状では、EAFTAの推進と平行してFTAAPの議論もしてゆくべきではないか。(おわり)
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