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2018-07-07 00:00
日朝平壌宣言は日本国の外交カードか?
倉西 雅子
政治学者
6月12日の米朝首脳会談を機に、日本国内のマスメディアでは、暫くの間、影を潜めていた日朝平壌宣言に注目する論評が目立つようになりました。同宣言こそ、日本国の対北外交の切り札ともなるとする意見もありますが、この宣言の内容を思い起こしますと、手放しでは評価できないように思えます。そもそも、同宣言は、‘サプライズ外交’で知られる小泉純一郎元首相が突然の平壌訪問により北朝鮮の金正日前委員長と交わした合意文書であり、国会で審議されることもなく、日本国民のあずかり知れぬところで作成されています。いわば、‘密約’といっても過言ではなく、しかも、その歴史認識も、かの‘村山談話’を踏襲しています。このため、同宣言では、日本国側が過去に朝鮮半島において過酷な‘植民地支配’を行った、謂わば‘加害者’と認定されています。現実には、日本国による朝鮮半島統治時代には、日本国が近代化を推し進め、毎年財政移転を実施していたにも拘わらず…。そして、日朝国交正常化に至った暁には、日本国側は北朝鮮に対して日韓請求権協定に準じて1~2兆円もの経済支援をすべし、とする意見も、同宣言に基づいているのです。
拉致問題に端を発した電撃的な訪朝が日朝平壌宣言の契機となった経緯を振り返れば、同宣言の効力こそ疑われてしかるべきなのですが、大方のマスメディアは、同宣言内容の履行を既定路線の如くに捉えています。そして、北朝鮮の「完全な非核化」の行方があやふやなまま、来るべき日朝首脳会談で拉致問題に進展があれば、日本国政府は、直ぐにでも平壌宣言に基づいて経済支援を開始する用意があるかのように報じているのです。
この展開は、拉致事件が一種の‘人質事件’である点を考慮しますと、極めて奇妙です。何故ならば、一般の人質事件の犯人のセリフは、“人質の命が惜しければ、身代金を払え”なのですが、拉致事件では、被害者側が、“身代金を払うから人質を開放せよ”と犯人側に迫っているようなものであるからです。つまり、拉致事件にあっては、平壌宣言は、犯人に身代金を払うための正当な根拠を与えており、犯人側、すなわち、北朝鮮のためのお膳立としか言いようがないのです(北朝鮮側があからさまに身代金を要求しなくとも、一部であれ、拉致被害者を解放すれば、日本国から莫大な経済支援が転がり込む…)。
こうした日朝平壌宣言が日朝交渉に果たす役割を考えますと、同宣言は、日本国の外交切り札ではなく、北朝鮮側の外交切り札となりかねないリスクがあります。北朝鮮側は、平壌宣言を盾にして、日本国に経済支援を要求することができるからです。こうした懸念がある以上、日本国側から平壌宣言を拉致問題解決の呼び水にすることは、自らを窮地に陥らせる結果を招きかねません。日本国の政府も国民も、平壌宣言の危うさこそ、深く認識すべきではないかと思うのです。
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