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2018-06-26 00:00
(連載1)金正恩による完全な非核化の意思表明への疑義
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
トランプ大統領は、金正恩朝鮮労働党委員長に対し体制保証や経済支援を提供することを示唆し、そのためには「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」に応じなければならないと事ある度に釘を刺してきた。しかもポンペオ国務長官は米朝首脳会談を前にして「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」が譲れない点であると念を押した。ところが、米朝首脳会談の共同声明に「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」は明記されなかった一方、盛り込まれたのは「完全な非核化」という簡素化された語句であった。残されたすべての課題は、今後の実務者協議に委ねられることになった。しかし米朝首脳会談での曖昧かつ不透明な共同声明という成果物を基礎として米朝実務者協議が行われることを念頭に入れると、非核化の履行については予断を許さないであろう。ところで、北朝鮮の非核化の完遂に向けた長い工程は金正恩指導部による核関連活動についての申告の提出から始まる。金正恩による申告の提出を待ち、非核化の完遂に向けた工程表の策定をトランプは急ぎたいところである。非核化の完遂期限を2020年11月の大統領選挙の前にトランプは設定していると推察されよう。
こうした認識に立ち、米朝首脳会談からまもなく金正恩に核兵器計画の全貌を明らかにするようトランプは要求した。ところが、金正恩からなかなか回答がない状況が続いている。遠からず金正恩は申告の提出に応じるであろうと見られる一方、その申告内容が核関連活動の全容を盛り込んだものであるかどうか厳格に検証する必要に迫られる。そのためには申告内容を検証する査察が非核化の履行にとって鍵を握ることは間違いない。それでは金正恩が提出するであろうとみられる申告は、核関連活動の全容を盛り込んだものであろうか。このことは金正恩が核を真摯に放棄する意思があろうかという問題に結びつく。この点について、金正恩の示唆するところの非核化の意思について朝鮮労働党や政府の幹部達から疑問視する声が伝えられている。金日成から金正日を経て金正恩に至る三代にわたる金体制は、核兵器を国家存立のための宝剣であると捉え核兵器開発に邁進してきた。そのように事ある度に言われてきた幹部達にとって、金正恩がこの期に及んで核を突然、放棄すると宣言しても幹部達の目には半信半疑に映っている。このことは「・・命同然の核を完全に放棄するはずがない」とみる幹部の発言に表れている。また「・・金(正恩)委員長が言う核放棄と国際社会が主張する完全な核放棄は意味が違う・・」という幹部の見方もある。こうした発言は事の本質の一端を表している。「・・核を放棄するということは北朝鮮体制を放棄することと何が違うのか・・」という幹部の発言に集約される通り、幹部達から見て核の放棄は北朝鮮体制の放棄を意味するのである。以下において論述する通り、金正恩の意味するところの核の放棄は核の全廃ではなく限定的なものであることを物語ると言えよう。
韓国へ亡命した元北朝鮮外交官の太永浩(テ・ヨンホ)も金正恩が核を完全に放棄することはないと疑義を挟んでいる。太永浩によると、核を「平和守護の強力な宝剣」と金正恩は位置づけ、「我々子孫がこの世で最も尊厳高く、幸せな生活を享受することができる確固たる担保である」と金正恩は語ったとされる。こうした金正恩の発言を踏まえ、「・・未来の確固たる担保であると規定しておきながらこれを放棄する?決して有り得ないことだ。核兵器の一部を放棄するなら分からないが・・」と太永浩は発言している。こうした発言は金正恩が示唆する核の放棄とは核の全廃ではなくその部分的な放棄であろうことを物語るのである。こうしたことから、北朝鮮が開発・保有している核ミサイル戦力の一部を金正恩は堅持しようと目論んでいるのではないかとの推論につながる。
このことは北朝鮮領内に想定以上に多数の核関連施設が点在していることからも窺える。北朝鮮領内に点在する核関連施設は40から100に及ぶ一方、保有する核弾頭数は20発から60発にも達すると米国の情報機関は推定している。しかも北朝鮮の核兵器計画の全容を米国の情報機関が把握しているわけではない。地下の核関連施設に秘匿されている可能性のある核分裂性物質や核弾頭を含めると、推定されているのは氷山の一角かもしれない。こうした状況の下で核関連活動の全容を解く鍵となるのは既述の通り、核関連施設での査察であろう。査察が非核化の履行を最終的に担保すると言っても過言ではない。そうした核関連施設での査察のためには300人以上の査察官が必要となると目される。しかも金正恩が核兵器の一部を秘匿しようと目論んでいる可能性を踏まえると、疑惑を持たれた核関連施設での査察を金正恩が拒んだ際、強制的に査察を行う権限が付与される必要があろう。そうでなければ、疑惑視された核関連施設への査察は手つかずのまま終わりかねないことが案じられる。(つづく)
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