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2018-06-20 00:00
(連載2)政治ショーと化した米朝首脳会談と今後
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
さらに落胆させたのはトランプによる記者会見であった。上述の具体性に乏しい共同声明を補うべく大統領は記者会見に臨んだかもしれないが、実際には傷口を広げる結果となったとの印象を残した。「なぜ、CVIDの詳細を詰めなかったのか」という記者の質問に対し、「時間がなかった」という大統領の答弁はいささかお粗末ではなかったであろうか。十分な時間があったならば、CVIDの詳細を詰めることができたのであろうかという疑問につながる。「非核化にはどれくらいの時間がかかるか」という質問に対して、期限は明示せず「・・非核化工程の2割も進めば、不可逆的な非核化が約束されるポイントになる」と大統領は述べた。トランプはそのように考えているかもしれないが、恐ろしく楽観的で非現実的な見通しであるように聞こえる。非核化工程の8割を超えても不可逆的な非核化は確保されないのではなかろうかと疑問が湧く。「・・非核化にかかる費用はどう賄うか」という質問に対し、「韓国と日本が大規模な支援をするだろう」と大統領は語った。応分の費用をわが国も負担するということは理解できようが、その前提としてわが国に脅威を与える核ミサイル攻撃能力が確実に除去されるとの見通しが確保されなければならないことは言うまでもない。
さらに北朝鮮の体制保証についてトランプは驚くべき譲歩を示唆した。「体制保証に関する詳細は」と聞かれると、大統領は「・・(在韓)米軍兵を米国に帰還させたいが、現時点では方程式に含まれていない。交渉が順調に進んでいる間は、ウォー・ゲーム(米韓軍事演習)を行わない・・」と語った。協議中の米韓合同軍事演習の中止や在韓米軍の撤退について曖昧な言葉でトランプは示唆したが、これが体制保証の具体的措置なのであろうか。非核化の具体的な中身に一切、言及がない反面、一方的に北朝鮮の体制保証のための措置に言及した印象を与える。こうした答弁は韓国の安全保障にとって重大な問題を惹起しかねない。文在演政権はこれまで一触即発の事態に瀕した米朝間の融和に尽力してきた。にもかかわらず、韓国の頭の上を通り越す形で重要な約束が結ばれ、しかも安全保障上の要とも言える米韓合同軍事演習の中止や在韓米軍の撤収を示唆したことに加え、北朝鮮の非核化に向けた取組みが曖昧かつ不確実であるにもかかわらず、非核化の主たる費用負担を任されることになったのでは遠からずして韓国からの反発が予想されよう。
唯一トランプが譲らなかったのは北朝鮮に対する経済制裁に関してであった。「制裁はどうなるのか」という記者による質問に対し、「制裁が取り除かれるのは、核兵器がもはや懸念材料でないと我々が確信したときである」と大統領は断言した。中身の乏しい記者会見の中で評価できるのは非核化が完遂までは経済制裁は堅持するとした一点であったといっても過言ではない。とは言え、すでに習近平指導部が北朝鮮に対する経済制裁を緩和するようなシグナルを送っていることは対北朝鮮経済制裁の空洞化へとつながりかねないと憂慮されるのである。今後、北朝鮮の非核化への取組みは実務者協議に委ねられるであろうが、その基礎となる共同声明が曖昧模糊としていては非核化に向けた道筋について合意できるであろうか案じられる。
実務者協議においてポンペオが北朝鮮側にCVIDを強く求めるとしても、「検証可能」と「不可逆的」という語句が抜け落ちた「完全な非核化」という共同声明の文言を盾に北朝鮮側が猛反発することも予想される。検証が確実に担保されないようでは非核化の体をなしていない。金正恩指導部が核兵器を外部から目の届かない地下施設などに秘匿しようとした際、どのようにしてそれを暴くかは査察に依拠する。トランプが過去の政権の瑕疵を追及したのはよいが、これではその二の舞となりかねないことが案じられる。金正恩指導部が今後、実務者協議で共同声明の抜け穴や抜け道を突くことが予想されるが、実務者協議での決裂をトランプが恐れれば、ずるずると米国が協議で後退を余儀なくされることが想定されるのである。5月24日に一旦は米朝首脳会談の開催を中止したトランプであったが、金正恩が急遽、擦り寄りをみせると、予定通りに6月12日の首脳会談開催を決断した。この間の紆余曲折の中で、金正恩は何の譲歩を行っていない一方、トランプが幾つも譲歩を行ったとの印象を残した。この間の進捗はトランプの読み通りなのか、金正恩の読み通りであったのか。現時点では金正恩の読み通りであったと言わざるを得ない。金正恩とすれば、してやったりというところであろう。(おわり)
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