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2018-06-07 00:00
欧州の軋み音
岡本 裕明
海外事業経営者
欧州の基盤、EUは何度となくその存続について議論されてきました。特に規律が厳しく、各国間の経済力の調整がやりにくい単一通貨制度はシステム上の致命的欠陥ともされてきました。国力の市場評価は為替という調整機能がないため、各国が発行する国債の利回りに反映されますが、これが時として台風のように大暴れし、世界経済への影響すら与えてきました。英国はそんな中、少しずつEU離脱に向けた作業を進めています。現状、2019年3月という期限を考えると実務協議ができるのはあと半年もないはずで大丈夫なのか、と危ぶむ声も大いにありますが、英国人の楽観主義が全体をすっぽり覆いかぶせているように見えます。
英国の離脱が果たして英国にとって得策なのかどうか、これは誰もわかりません。専門家は関税同盟がうまくいかず、FTAなど二国間協定に頼ったとしても果たしてうまくいくだろうか、と懐疑的であります。ただ、これは英国とEUにおける力関係から指摘される「交渉力」をベースにした推論であり、英国のあまのじゃく的体質からすればすり寄ることは考えにくく、英国は英国の道を歩むという傾向は否定できないとみています。とすればEUが英国をEUの支配下に置くその目論見は見事に外れるかもしれず、この勝負、どこに向かうのか、意外と「事実は小説より奇なり」のようなことも起きるかもしれません。さて、私がふと欧州にスポットを当てたくなったのはEUという岩盤にイタリアがどんな抵抗を見せるのか、タイミングの問題も重なり注目に値すると考えたからです。
イタリアは今年3月に選挙があり、ポピュリズム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」が連立を組んで組閣に臨みました。政策の注目点は反EUであります。ところが誰も知らないような大学教授を首相候補に挙げるなど無謀ぶりが目立ち、大統領であるマッタレッラ氏はこのままでは国が持たないと思ったのでしょう。経済に明るい元IMFのコッタレリ氏を暫定首相に任命し、政治家を極力入れない組閣を行い、早期に行うであろう総選挙までの「幕間つなぎ」を指示しました。イタリアは日本以上に首相がくるくる変わる国で国家の運営が極めて不安定であります。この国の人もまた楽観主義でかつ、国のことを考えるより太陽と美食と美女を追っかけているようなところがあります。そこに厳しい戒律で縛り上げる北部ヨーロッパの国々、つまり、ドイツ、オランダなどが「どいつもこいつもしょうがない国ばかり」とビールを飲みながらわんわん吠えているのが実態かと思います。しかし、ドイツもどこまでその力を示せるのか、5年前のメルケル首相の辣腕ぶりがずっと続いているわけではないと考えると「EU懐疑論」が再び襲い掛からないとも言い切れないでしょう。
そういえばフランスでは政府がルノーと日産を合併させ、フランスの企業にさせようと企てています。フロランジュ法という世にもへんてこな法律で労働者の味方、フランスをより強い国にというスローガンで無茶なことを本気で考えています。欧州と北米の違いは何でしょうか?欧州の国家がそれぞれあまりにも違う体質なのに、EUができた時にその個性に無理やり蓋をした点であります。それが我慢できなくて自国民の声が抑えられらなくなったということでしょうか。アメリカは新天地のもと、どんな移民もアメリカ色に染めてしまった点と大いなる違いです。イタリアが具現化しているポピュリズムは古代ローマから何ら変わらない体質なのかもしれません。国民と政府が発する歴史を背景としたボイスは決して消えることはないのでしょう。ドイツはねじを締めあげるのか、それともメルケル神話がフェードアウトした今、その向かうべき道を再び模索するのか、欧州の悩みは深刻なように感じます。
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