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2018-05-29 00:00
(連載1)米朝首脳会談に向けた仕切り直しと不確実な先行き
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
5月24日に北朝鮮北部の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場が爆破、廃棄されたと報道があった数時間後、トランプ大統領は6月12日にシンガポールで予定された米朝首脳会談を突然、中止すると発表した。ここ数日間の動きで首脳会談の開催が難しいかもしれないとの憶測が流れていたが、中止を伝える報道は激しい衝撃を世界に与えた。首脳会談中止について金正恩朝鮮労働党委員長に宛てたトランプの書簡がまもなく公開された。その中で、トランプは「・・あなた方の一番最近の声明で示されたとてつもなく大きな怒りとむき出しの敵意に基づけば、私はこの時期に長く準備されてきた首脳会談を行うことは適切ではないと感じている・・」と語った。その二日前の5月22日にトランプは文在演大統領との会談で、米朝首脳会談は中止になる可能性があると示唆していた。とは言え、米朝首脳会談が99.9%開催されると文在演政権は公言してはばからなかった。その後、米朝首脳会談の開催は来週になればわかるであろうとトランプは意味深長な発言を行った。
トランプに米朝首脳会談中止を決断させたのは、その後に起きた出来事であった。5月24日に崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が行った談話に対しトランプは不満と不快感を禁じえなかった。その伏線になったのは16日に金桂冠(キム・ゲグァン)第1外務次官がボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を厳しく指弾し米朝首脳会談を再考する可能性を示唆した談話であった。金桂冠に槍玉に挙げられたボルトンは何を発言したのか。ボルトンは13日に「・・私が考えるに(非核化の)決定の履行とはすべての核兵器を除去しテネシー州のオークリッジに搬出することであり、ウラン濃縮や再処理の能力も取り除くことである」と断言した。ボルトンに対する金桂冠による指弾は、トランプを少なからず動揺させた。これを受け、トランプは直ちにポンペオ国務長官を通じ北朝鮮の意思を確認しようとしたが、北朝鮮側に無視された。トランプは怒りを隠せなかった。
この間、トランプ政権の怒りは21日のペンス副大統領の談話に表れた。同日、ペンスは「・・金正恩がドナルド・トランプを手玉に取ることができると考えているなら大きな過ちとなる」と金正恩へ警鐘を鳴らした。これに対し24日に崔善姫がペンスを激しく愚弄するに及んだ。「ペンスは・・リビアの徹を踏むだの、北朝鮮に対する軍事的選択肢は排除されたことがないだの、米国が求めているのは完全かつ検証可能で不可逆的な非核化だのと言って僭越に振舞った。・・米国がわれわれと会談場で会うかさもなければ核対核の対決場で会うかは、すべて米国の決心と行動にかかっている・・」と崔善姫は断じたのである。トランプが特に問題視したのはこの談話であった。崔善姫の談話には、2017年の終りまで金正恩指導部が事ある度に相手に浴びせた中傷と恫喝の典型的な言い回しが看取された。トランプはそれを感じ取ったのであろう。米朝首脳会談の中止をトランプは決断した。
トランプに会談の中止を決断させたのは、度を超したともとれる文言であったことは間違いない。このような中傷と恫喝ととれる文言を並べることにより、トランプをして譲歩に応じさせることができると読んだとすれば、金正恩に大きな読み違いがあったことは明らかであろう。米朝首脳会談の成否がトランプにとって重要であることは確かであろうが、今後も続くであろう対北朝鮮経済制裁が金正恩体制の存立を脅かしかねないことを踏まえると、金正恩にとって米朝首脳会談の持つ意味はその比ではないはずである。米朝首脳会談に向け数週間に迫ったこの時期に、金正恩がこうした文言を使ったことは金正恩が明らかに冷静さを失ったとも受け取れる。この間、何が起きていたのか。首脳会談に向けた準備はトランプの思惑通りに進捗していたと捉えることができた。5月9日のポンペオと金正恩の二度目の会談において、ポンペオが金正恩に対し行った非核化の要求の概略が明らかになっている。それによると、1.すべての核兵器と保管場所について公開し査察を受けること、2.短期間で核兵器やICBMの一部を国外に運び出すこととされた。こうしたトランプ側の要求に対し金正恩も前向きに捉え、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談が確定したとのことである。(つづく)
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