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2018-05-19 00:00
チョムスキー 氏の米国撤退論は愚の骨頂
前田 智紀
会社員
生成文法理論などで知られる言語学者のノーム・チョムスキー氏は、長年にわたる積極的な政治的発言でも有名です。このチョムスキー氏が、数日前、ニューヨークで講演し、先日の板門店宣言に示された南北朝鮮の歩み寄りを積極的に評価するとともに、朝鮮半島問題の解決(和平、非核化、統一など)は当事者である南北朝鮮の主体性に委ね、米国はこの問題から手を引くよう示唆したとの報道に接しました。いかにもチョムスキー 氏らしい主張でありますし、同氏のような主張は、我が国でも左派のみなさんからちょくちょく出てきます。
チョムスキー氏は、かねてから、米国こそが世界の「ならず者国家」であり、世界各地を踏み荒らし、人倫を蹂躙し続けている、というのが持論です。北東アジアについても、米国がいつまでも撤退せずにのさばっているから情勢が緊張し続けるのだ、という理解のようです。したがって、とりあえず米国は引っ込め、という話になるわけです。しかし、こうしたチョムスキー氏の議論には、致命的な欠陥があります。つまり、たしかに米国には、いわゆる旧世界の国々に比べ、歴史観や情勢判断において、即断即決の動きをとる傾向にあり、ときに世界各地で混乱をきたすことはあります。しかしながら、たとえいくつかの行き過ぎや失敗があったとしても、米国のがんばりがなければ、戦後世界の平和と繁栄はこれほどまでは達成されなかったことは間違いありません。したがってチョムスキー氏のような考えはあまりに一面的に過ぎると言わざるを得ません。
朝鮮半島問題に話を戻すますと、たしかにこの問題は、南北朝鮮という当事者の意思を無視した解決はあり得ないことはたしかでしょう。しかしこの地域には、南北朝鮮だけでは制御できるわけもない国際システムがしかと成立しており、そこには中国も日本もロシアも米国も絡んでいて、微妙なバランスを保っているわけです。何より、この点がチョムスキー氏には見えていない致命的な部分です。したがって、この問題の解決には、南北朝鮮の主体性を尊重しつつも、この地域の国際システムをいかに安定理に制御していくかという課題が必然的に伴うといえます。その意味では、こと米国に関していえば、朝鮮半島問題をめぐっては、引っ込み過ぎてもよくないし、出しゃばり過ぎてもよくない、と考えるべきでしょう。いずれの場合にも地域の国際システムにひずみが生じてしまうからです。
さて、このバランス感覚をトランプ大統領がどれほど持ち備えているかですが、なかなか危なかしいものがあります。なにせトランプ大統領は、あまりに多国間主義の意味を理解していません。こう書いてまいりますと、米国悪玉論に拘泥し国際システムの機微を見ようとはしないチョムスキー氏と、二国間主義にこだわり、多国間主義をまったく理解しようとしないトランプ氏は、意外にもその短絡的な国際政治観において近接的な感覚を共有しているのではないか、という気がしてきました。とにかく国際政治を考えるには、アートに近いセンスが必要だということです。
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