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2018-04-24 00:00
「在韓米軍撤退」は危険
加藤 成一
元弁護士
北朝鮮をめぐる情勢が目まぐるしく動いている。北朝鮮の平昌五輪参加に始まり、韓国大統領特使団と金正恩委員長との会談、南北首脳会談開催合意、米朝首脳会談開催合意、中朝首脳会談、日米首脳会談など、北朝鮮の「非核化」をめぐる動きが急である。最近の報道によると、南北首脳会談では、現在の休戦協定を平和協定に変え、関係国を含め南北間で平和条約を締結する案も検討され、トランプ米国大統領もこれを否定しないとのことである。北東アジアの平和と安定にとって、こうした動きは一見好ましい動きに映る。しかし、北朝鮮のいう「非核化」とは、韓国を含む朝鮮半島全体の「非核化」であり、北朝鮮のみの一方的な「非核化」ではない。そのうえ、仮に南北間で平和協定ないし平和条約が締結されれば、その存在理由が無くなったとして、在韓米軍の撤退を北朝鮮は要求するであろう。就任以来「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ大統領はこの要求を受け入れ、在韓米軍を撤退させる可能性もないとは言い切れない。仮に在韓米軍が撤退すれば、単に北朝鮮の韓国に対する軍事的圧力が増大するのみならず、北東アジアにおける中国の軍事的影響力も格段に増大し、地域の不安定化をもたらす恐れがある。
なぜなら、在韓米軍は韓国防衛だけではなく、北東アジアの平和と安定にも大きな役割を果たしているからである。2010年7月の米韓外交・国防長官会談でも、米韓同盟(在韓米軍)が、朝鮮半島のみならず、北東アジアの軍事バランスを維持し、北東アジアの平和と安定を増進させていることを相互に確認している。在韓米軍の撤退による北東アジアにおける軍事バランスの崩壊は、日本を含む地域の平和と安定にとって極めて危険である。かつて、慶應義塾大学塾長小泉信三博士は、「私は平和確保のため、力の真空状態の存在は危険であるという意見である。朝鮮動乱はこれを痛感させる。アメリカと国連はなぜ事前に侵略を抑止することをしなかったのであるか。あれだけの抵抗にあい、あれだけの犠牲を要することが分かっていれば、北朝鮮軍はあの冒険をあえてしなかったであろう。北朝鮮軍があの行動を起こしたのは犠牲なく、たやすく韓国を侵略できると思ったから、また思わせたからである。たやすく侵略が成功すると思わせる状態を力の真空状態というのである。」(小泉信三博士著「私の平和論について」小泉信三全集第10巻473頁~475頁。昭和42年7月文芸春秋社刊)と述べ、「抑止力」の重要性を説いておられる。現在の国際情勢にも通じる正論と言えよう。
周知のとおり、トルーマン大統領下のアチソン国務長官は、1950年1月12日の演説で、日本、沖縄、フィリピン、アリューシャン列島に対する軍事侵略に米国は断固として反撃するとしたが(不後退防衛線「アチソン・ライン」)、台湾、朝鮮半島、インドシナ半島などにつき明確な介入の意思を示さなかった。このため金日成は、米国による西側陣営の南半分(韓国)放棄と考え、韓国に対する武力統一を決断し、中華人民共和国毛沢東及びソ連スターリンの同意と支援を受け、1950年6月25日韓国に侵攻し朝鮮戦争が勃発した。開戦直前の南北の軍事バランスは、南の総兵力は10万6,000人、北は19万8,000人で、北が有利であった。このような「アチソン・ライン」の設定や南北軍事バランスの不均衡が、力の真空状態を生み出し、朝鮮戦争の重大な誘因となったのであり、これを我々は歴史の教訓としなければならない。
金正恩委員長は朝鮮半島の「非核化」は言うが、金日成以来の国是である朝鮮半島の武力統一の方針を放棄するとは言っていない。金日成は、朝鮮半島の武力統一について、「祖国解放戦争(朝鮮戦争)の時期に、南朝鮮の人民が敵の後方で暴動をおこし、人民軍の進撃に呼応して闘かったならば、我々は敵を徹底的に撃滅して祖国統一の問題をすでに解決していた」(金日成著「金日成著作集」18巻233頁。1988年ピョンヤン外国文出版社刊)と述べている。在韓米軍の撤退は、韓国のみならず日本を含む北東アジアの軍事バランスを崩壊させ、力の真空状態を生み出し、地域の平和と安定に深刻な影響を与えるであろう。
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