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2018-04-11 00:00
(連載1)北朝鮮危機と韓国歴代政権の板挟み
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
北朝鮮による侵攻の脅威に常々曝される韓国にとって安全を確保するために北朝鮮に対し融和政策で臨むべきであるとする路線と、その反対に強硬政策を講ずるべきであるとする対極の路線が存在する。1994年6月に米朝間で軍事衝突の危機が高まって以降、文在演現政権に至るまで金泳三、金大中、盧武鉉、李明博、朴槿惠の5代にわたる政権が交代してきたが、これらの政権は対極の路線のいずれかを踏襲した。金大中と盧武鉉が融和政策を踏襲したのに対し、金泳三、李明博、朴槿惠は強硬政策を堅持した。振り返ると、1998年2月に大統領に就任した金大中は北朝鮮による軍事挑発は許さない、北朝鮮を吸収することはない、和解と合意可能な分野から協力を積極的に進めるとした三原則に基づく太陽政策を推進した。これに対し、当初、警戒心を解かなかった金正日であったが、金大中が発信し続けた太陽政策に金正日は応じる決断をした。太陽政策は2000年6月中旬の初の南北首脳会談の実現へと道を切り開いた。これを契機として、金剛山観光事業、開城工業団地事業、京義線・東海線鉄道及び道路の連結事業、離散家族再会事業など様々な南北共同事業が実施に移された。
その後、2003年2月に大統領に就任した盧武鉉は太陽政策を継承し、平和・繁栄政策の呼称の下で人道支援活動を積極的に続けると共に南北共同事業を推進した。盧武鉉には金大中と共通した読みがあった。韓国への北朝鮮の経済面での依存度を漸次、高めることにより金正日の冒険的かつ挑発的な行動に縛りをかけようとするのが盧武鉉の平和・繁栄政策の根幹にあった。しかし日米両国と距離を取りながら平和・繁栄政策を進めるという盧武鉉の目論みは結局、金正日の強かな術策に弄ばれることにつながった。2006年10月9日に強行された第1回核実験は韓国民の多くを震撼させた。融和政策が続く限り金正日指導部が核実験に打って出ることはないと信じていた韓国民の多くは、金正日への警戒心を多少ならずとも解いていた。しかし核実験が強行されたことにより、北朝鮮の脅威が厳然と実在することを韓国民は改めて感じさせられた。韓国への北朝鮮の経済上の依存度を高めることで金正日は冒険的行動を慎むであろうとした目算はあくまで盧武鉉と彼と見解を共有する人達の希望的観測であった。金正日がそうした認識を共有していなかったことは、核実験の強行が痛いほど知らしめた。いかに経済的な結びつきを深めようと、必要があると判断すれば金正日は無謀とも思える行動に何の躊躇もなく打って出ることが図らずも立証された。これによって南北融和を掲げた盧武鉉が抱いた淡い展望は一蹴される結果となった。
全面的関与の時代は2008年2月の李明博政権の発足に伴い終わった。大統領選出が決まった時点から、李明博は盧武鉉の無条件の融和政策から大きく舵を切る意思を明確にした。過去の轍を踏むことがないよう厳しい対応が必要であるとの判断の下で、金大中と盧武鉉の二代に及んだ政権の十年間に踏襲された融和政策を激しく指弾し、同政策からの決別の意思を李明博は表明した。融和政策の下で北朝鮮へ向けられた支援総額は約69億ドルに上ったとし、その大部分が核・ミサイル開発計画へと投入された疑いがあると、李明博は言明した。その後、2013年2月に李明博の後を継いだ朴槿恵は前政権の対北朝鮮政策を踏襲した。2016年の初めから激しさを加えた金正恩指導部の軍事挑発の続発を目の当たりにして、弱みをみせることがあればその隙に乗じる機会を金正恩に与えかねないと、朴槿恵は決心した。金大中政権時代から長期にわたり南北交流事業の中核的な事業であり、また南北交易額において圧倒的な比率を占めてきた開城工業団地事業の稼働停止を2016年2月に決めた。
これは事実上の北朝鮮との経済断交を意味した。常軌を逸した感のある金正恩指導部による軍事挑発への毅然とした対応であるが、その背景には同事業で得た収益が北朝鮮の核・ミサイル開発に流用されてきたとの反省もあった。その後、朴政権は自らのスキャンダルで酩酊状態に陥ったものの、朝鮮半島有事を視野に入れ韓国軍が軍事的対応を整えだしたというのが現実である。文在演が大統領に就任したのは米朝が厳しく対立を続ける最中であった。2017年5月9日に対北朝鮮融和派の文在寅が第19代韓国大統領に就任すると、文在寅は就任演説で朴政権が引き起こした疑惑で著しく傷ついた政府への信頼を回復すべく韓国民に呼び掛けた。文在寅の呼掛けは北朝鮮との融和を唱え太陽政策を推進した金大中、その後を継ぎ平和・繁栄政策を進めた盧武鉉を引き継ぐものである。これに対し冷めた目で金正恩は文在寅をみていた。金正恩にすれば、朴槿恵が科した独自制裁を解除せず、国連の対北朝鮮経済制裁の履行に加わり、米韓合同軍事演習を続ける文在演は米国の傀儡であることを物語った。(つづく)
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