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2018-03-14 00:00
緊縮財政や増税の尻拭いをするのが日銀ではない
田村 秀男
ジャーナリスト
昨夏、早稲田大学建学の祖として大隈重信と並び称される小野梓の出身地、高知県宿毛市を訪ね、碑に刻まれた言葉に見入った。「国民精神の独立は実に学問の独立に由る」。今の日本の経済学に欠けているのはこの気概ではないか。ひたすら財務省にすり寄る御用学者たちは、1997年の消費税増税が20年デフレのきっかけになった事実を否定。原因をアジア通貨危機や山一証券破綻に押しつけ、さらなる消費税増税の経済への悪影響は軽微だと民主党政権時代の野田佳彦首相をその気にさせた。
増税に慎重だった安倍晋三首相も言いくるめられて2014年3月に消費税率を予定通り8%に引き上げたら、それまでのアベノミクスの成果は吹き飛び、デフレ圧力が再燃した。御用論者は性懲りもなく財務官僚のシナリオに従って、消費税率10%への再引き上げを催促する。安倍首相は2度拒絶した揚げ句、19年10月に先送りした。昨秋の衆院選では実施を公約に掲げた。脱デフレをそれまでに必ず達成しないと、増税は無茶だ。重大な意味を持つのが日銀首脳陣の人事である。安倍首相の周辺では、4月に1期目の任期が到来する黒田東彦総裁に代わって、個人的にも親しいアベノミクスの指南役、本田悦朗スイス大使を起用する案も浮上していた。
本田氏は拙論と同じく、日本再生のためには、財政と金融の両輪をフル稼働させる必要があると論じ、消費税増税にも慎重論を唱えてきた。案の定、「本田総裁」案には財務省と日銀が共に猛反対したが、官僚に距離を置く首相は意に介す様子をみせなかった。それでも、異次元緩和政策を推進してきた黒田氏を交代させる理由もない。黒田氏本人もやる気満々だ。他方では「お友達」の本田氏を任命した場合の政治的雑音も予想される。リスクの少ない黒田続投が決まった。首相がアクセントをつけたのは副総裁人事である。リフレ派学者、岩田規久男副総裁の後任に指名したのは早稲田大学の若田部昌澄教授だ。財政・金融の両輪論では本田氏に近く、消費税増税に反対する希有な学者である。安倍首相に予定通りの消費税増税を迫る財務官僚上がりの黒田氏を牽制できる。
もう1人の副総裁候補には米コロンビア大教授の伊藤隆敏氏がいた。財務官僚お気に入りだが、日銀官僚はかなり早い段階から潰しにかかった。日銀生え抜きで将来の総裁候補と推す雨宮正佳理事をどうしても据えたかったのだ。ここで冒頭の話に戻す。日銀は1998年の改正日銀法で財務省からの「独立」を果たした。ところが、日銀官僚はいまだに財務官僚の言いなりだ。学者時代には財務省の緊縮財政に批判的だった岩田副総裁も日銀入りしたあとは、周りから財政批判の口を塞がれた。早稲田出身の若田部氏は、緊縮財政や増税の尻拭いをするのが独立日銀ではないはずだ、との気概を示すと、期待したい。
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