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2018-02-14 00:00
賃上げだけで脱デフレが可能なのか
田村 秀男
ジャーナリスト
安倍晋三首相は1月22日の衆参両院での施政方針演説で、賃上げによる脱デフレ達成に決意を表明した。経団連も3%賃上げに前向きで、連合も春闘に向け意気込んでいる。まさに政官の足並みがそろいつつあるのだが、賃上げは脱デフレの必要かつ十分条件といえるのか。筆者はかなり前から、日本の慢性デフレの特徴は物価の下落を上回る速度で賃金が下がることだとし、1、2年の短期間よりもより中長期の賃金、物価のトレンドを重視すべきだと説いてきた。企業の賃上げ判断は当座の業績次第なので、円高や輸出など外部環境に左右される。仮に、今春闘で一定程度の賃上げが実現したとしても、翌年以降も賃上げ基調が続くとは限らない。
家計を預かる主婦も、そのことはよくわかっているので、給与が多少上がったからと言って、財布のヒモを緩めるとは限らないだろう。1997年度の消費税増税に始まり、20年間も続いてきた慢性デフレは身構える家計心理を生み出してきた。96年以降の賃金、物価の推移を追ってみた。昨年9月時点での消費者物価は20年前の水準に戻ったが、賃金水準は約3・5%下回っている。賃金はアベノミクスが2012年12月に始まったあと徐々に上向いているが、物価がはるかに大きく上昇し、賃金は実質ベースで下がっていることが読み取れる。日銀の生活アンケート調査で、暮らし向きが悪くなったという家計が多いのも無理はない。
元凶ははっきりしている。14年4月の消費税増税である。消費税率3%の引き上げは消費者物価を2%程度押し上げるのだが、賃金水準はゼロ・コンマ台しか上がらない。安倍政権は一貫して脱デフレを最優先すると宣言してきたが、消費税増税という真逆の政策を受け入れて、脱デフレ軌道を自ら壊したのだ。安倍首相はさすがにこの誤りに気付き、消費税率10%への引き上げを2度にわたって延期した。19年10月には非常事態でもない限り再増税を実施すると昨年の参院選時に公約した。増税に伴うデフレ圧力をかわすための条件が3%賃上げというわけだ。
第1次安倍内閣の07年までの数年間、賃金水準は物価水準を超える幅で回復した。要因は当時の日銀の量的緩和と円安、輸出の好調だったが、08年9月のリーマン・ショックが勃発し、急落する物価よりも急激に賃金が落ち込み、先進国で最も厳しいデフレ不況に陥った。今回も日銀の異次元金融緩和、円安、輸出という3点セット頼みの脱デフレ期待である。日銀の黒田東彦総裁は23日の政策決定会合で緩和策の続行を決めたが、円安と輸出増が続くとは限らない。脱デフレを確実に実現するためには内需をしっかりと拡大させる政策、言い換えると財政支出を金融緩和に組み合わせることが欠かせないはずだ。
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