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2018-02-10 00:00
北朝鮮の五輪参加は国際社会への参加ではない
倉西 雅子
政治学者
北朝鮮が平昌オリンピックへの参加に固めたことを受け、韓国大統領府は「平和五輪精神の達成に向けた重要な懸け橋になる」とし、もろ手を挙げて歓迎の意を表しているようです。親北派の文大統領としては、核・ミサイル問題をめぐって国際社会において孤立してきた北朝鮮の五輪参加を、平和への道、即ち、国際社会への参加の第一歩と位置付けたいようです。全世界の諸国が集うスポーツの祭典に北朝鮮も顔を揃えれば、世界平和を象徴すると期待しているのでしょう。閉会後もこの流れが維持され、あわよくば文政権の基本方針である対話路線に北朝鮮を誘い込むのが韓国側の思惑かもしれません。しかしながら、韓国側のこの思惑は、楽観的に過ぎると言わざるを得ないように思えます。第一に、古代ギリシャのオリンピックに遡る平和の精神とは、一時的な休戦を意味するに過ぎません。たとえ交戦状態にあっても、全てのポリス(都市国家)がオリンピックの開催期間に限っては相互に武器を置き、競技に参加したことを以って、平和の精神と呼んでいるのです。この歴史に鑑みますと、平昌オリンピックに朝鮮半島の永続的な平和を実現する効果は期待するのは、文大統領の過大な解釈です(この点は、IOCのバッハ会長も同じ…)。
第二に、“社会”というものは、その構成員が共通のルールや価値観を共有しないことには、成立しない性質のものです。北朝鮮問題の本質とは、国際社会の行動規範から逸脱、即ち、無法をよしとする暴力主義にありますので、この国柄を変えずして国際社会に加わったのでは、反社会的組織の一般社会への参入に等しくなります。“オリンピックは参加することに意義がある”とされていますが、国際社会に脅威をもたらす暴力国家が参加しても、韓国以外の諸国は眉を顰めるのみとなりましょう。
第三の問題点は、韓国の対北大幅譲歩は、国際的なコンセンサスに反する点です。韓国政府は、南北合同チームの結成に留まらず、北朝鮮が派遣する大規模な芸術団や応援団の受け入れをも表明しており、平昌オリンピックは、北朝鮮色に染められることでしょう。この点は、韓国国内でも、平昌オリンピックが“平壌オリンピック”に変わったと揶揄されているそうですが、そもそも同オリンピックの誘致に際して、韓国は、北朝鮮との合同開催をIOCに提案していたわけではありません。仮に、合同開催案での立候補であれば、各国の支持を集めて誘致に成功したかどうかは分からないのです。
そして、第四に挙げられる点は、仮に、韓国が、北朝鮮から平昌オリンピックへの参加の“見返り”を求められた場合、その対応に苦慮する事態が予測されることです。おそらく、北朝鮮側は、韓国政府に対して自国に有利な方向、即ち、核・ミサイル放棄を前提としない条件下での対米関係の調整を求めることでしょう。この“見返り”は、話し合い路線を支持する中国やロシアには歓迎されますが、アメリカとの関係にあっては、米韓同盟に深刻な亀裂を生むことは必至です。中ロをバックとした韓国の対北融和策は、国際社会における対北制裁網をも弛緩させ、国際社会において暴力主義勢力を勢いづかせかねないのです。短期的には、韓国が開催国となる平昌オリンピックへの北朝鮮の参加は、一時的であれ、南北融和という平和を実現しているように見えます。しかしながら、長期的な視点から見ますと、その結果は逆となるのではないでしょうか。
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