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2018-01-13 00:00
中国人学生の考える 「望ましいAI」
加藤 隆則
汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
先日、今学期の担当授業が終わった。これから大学はテスト期間を迎え、その後、春節を含む冬休みに入る。昨年秋、中国共産党の第19回全国代表大会が開かれ、習近平政権の2期目がスタートしたばかりだが、各大学とも、予算の獲得や高い格付けを得る必要から、競って習近平思想の研究に力を入れている。だが、それは表向きのジェスチャーに過ぎない。実際はもっと過酷な競争にさらされている。国家が重視する最先端技術の開発や国家戦略に沿った研究では、世界ランキング入りの研究レベルが求められる。教師の査定も「工作量(仕事量)」として数量化され、厳しくチェックを受ける。目立った業績のない学部はあっさり統廃合される。こうしたプレッシャーが、世界でも有名な論文の盗作を生んでいる。だが、倫理面ばかりに目を向け、大きな背景を見失うと、ただ「ダメな国」を笑い飛ばすだけで終わってしまう。国全体が猛烈な勢いで人工知能(AI)やロボットの開発に取り組んでいる事実を軽視してはならない。
私が籍を置くジャーナリズム・コミュニケーション学部は、他大学の同種学部と同様、新聞やテレビの衰退とニューメディアの隆盛によって、大きな曲がり角に立たされている。本来の記者養成という目的は薄れ、時代の潮流に合致して多様な人材の育成が急務だ。その要請にかなうように、私は担当する『現代メディア・テーマ研究』で4か月間、もっぱらAIを主要テーマにした。インターネットはもはやPCや携帯電話から解き放たれ、あらゆるモノに入り込んでいる。それにつれ、メッセージを媒介するメディアの概念も、新聞とネットといった既成の枠を飛び越えている。
人間を主人公とする社会に揺さぶりをかけるAIの出現を切り口に、もう一度身の回りの生活を見直しながら、自分とは何か、人とは何か、を問い直そうと考えた。クラスの学生は3、4年の36人。教室では、AIの基本的な研究から発展の歴史、また、中国でのAI開発の現状や問題点、さらには人とAIとの共存について、学生の自主発表を中心にしながら議論を深めた。現在進行で進む最先端のテーマなので、学生たちの積極性が際立った。国家がAIを重点プロジェクトにし、メガ企業からベンチャーまでが膨大な資本を投じている。Eコマース、シェアリングバイク、ドローン、VR、自動翻訳など、若者たちの周りにはAI技術があふれている。ネットではAI記者が記事を配信し、大学の図書館には顔認証システムが導入されている。卒業作品の映画にも、協賛企業が制作したロボットが登場している。
かつてないほど人間に近づいているAIと向き合うことは、実のところ人間自身と向き合うことにほかならない。人間も抽象的な存在ではなく、まず自分がある。自分という存在を掘り下げなければ、周囲の環境も正しく把握することはできない。その思索の中から、関心、陪伴、助手、恐懼、情感、生命、縁、記憶、など、人間とAIとの関係をとらえるさまざまなキーワードがみつかった。国全体が一つの目標に向かって突き進んでいるようにみえる。だが、内実は複雑だ。個々人の心が抱えている問題は、国の違いによって大きく変わるわけではない。共通の課題を人々が共有しないうちに、権力と利益の両輪が、科学と技術のアクセルを加速し続ける。こんな恐ろしいことはない。
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