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2017-11-10 00:00
(連載2)朝鮮半島危機と米朝対話の可否
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
また2016年9月には米大統領選を前に「米外交問題評議会(CRF)」から上記の合意を想起させる報告書が刊行された。同報告書の問題意識は次期大統領の任期内に対米核攻撃能力を北朝鮮が獲得するであろうことを踏まえ、決定的な対応を次期大統領が決断しなければならないとの認識であった。そうした問題意識の下で報告書は北朝鮮の核兵器開発と弾道ミサイル開発の凍結を目指した協議を提唱した。すなわち、核実験、長距離ミサイル発射実験、プルトニウム再処理、ウラン濃縮、寧辺の黒鉛炉など5件の凍結と、国際原子力機関(IAEA)による核関連施設の査察を提唱すると共に、これに並行する形で、米韓両国が北朝鮮への食糧支援を行うと共に米韓合同軍事演習の縮小を含めた措置についても検討する。最終的には、北朝鮮の非核化と米朝平和協定の締結も視座に捉えるというものであった。核保有の容認が全く出てこないこの種の取組みはトランプ政権にとって都合がよくても、金正恩にとって受け入れ可能ではないであろう。
最後に出てくるのが金正恩の望むとされる米朝核交渉であろう。金正恩は一日も早く対米ICBMを完成させ、世界に向け対米ICBMの完成を宣言し、その上でトランプ側との米朝核交渉に臨みたいと目論んでいると考えられる。金正恩とすれば、米朝交渉において核保有の容認、経済制裁の解除、米朝平和協定の締結、在韓米軍の撤収、米朝外交関係正常化などをトランプに認めさせたいであろう。トランプは2017年5月1日に「条件が整えば、彼(金正恩)に会うだろう」と語った。その条件は核兵器と弾道ミサイル開発計画の完全な放棄であった。総ての核兵器開発とミサイル開発の放棄を前提にしない限り、対話に応じる用意はトランプにない。金正恩が対米ICBMの完成宣言を行ったとしても、金正恩の思惑通りに米朝核交渉は始まらない。金正恩がトランプに対し北朝鮮の核保有を認めることを執拗に要求している一方、トランプは核の放棄を求めていることに標される通り、交渉の前提となる基本方針が余りにも違いすぎる。
とは言え、一触即発の危機が日々深まる中で、米朝核交渉の開催に踏み切らざる得ない局面にトランプは遅かれ早かれ立たされる可能性がある。しかし米朝核交渉に辿り着いたとしても、交渉が金正恩の目論見どおりに進むとは考え難い。核保有の現実を受け入れろとする金正恩の要求と、核を放棄せよとするトランプの主張との間には「天と地」ほどの開きがある。トランプの要求は金正恩にとってこれまで血と汗で作り上げた各種の核ミサイルを廃棄せよという、武装解除要求以外の何物でもない。「対話のみが唯一の出口」であると王毅は言うが、その対話が妥結する可能性が極めて厳しいのである。結局、米朝双方が持論を繰り広げ原則に拘るならば、米朝核交渉は物別れに終わる公算が高い。とは言え、核交渉の決裂は軍事衝突の危険性をほとんど不可避にしかねない怖さがある。何としても軍事衝突の危険性を忌避しなければならないとすれば、最後に折れるのは金正恩ではなくトランプの側となるのではないであろうか。自らを瀬戸際に追い込み必死に超大国・米国に立ち向かう金正恩に譲歩の余地はない一方、最後のところで譲歩にトランプが転じる可能性がないわけではない。その譲歩というのは他でもなくトランプ側が北朝鮮の核保有を限定的に容認することであろう。既述の通り、米国内でそうした見解が聞かれることは金正恩にとって願ったり適ったりであろう。
米朝核合意の締結により、喫緊の危機的状況は沈静化できるかもしれない。とは言え、同合意の実施はさらなる困難が伴うであろう。一定の数の核弾頭を容認する合意に米国が応じるとしても、同合意は検証可能でなければならず、そのためには査察が的確に行われなければならない。しかし1990年代の米朝高官協議において金日成指導部が最後まで執拗に査察逃れをしたという経緯、また2000年代の6ヵ国協議が検証を巡る対立が解けず頓挫した経緯を踏まえたとき、合意の検証は本当に可能であるのか。検証の実施はあまりにも不透明であり疑問が残る。しかも、北朝鮮の核保有を条件付であれ容認するとすれば、それがもたらしかねない重大な反作用についてトランプは熟慮しなければならないであろう。条件付きであれ北朝鮮の核保有を容認することがあれば、韓国への核兵器の持込を真剣に考えざるをえなくなるであろう。差し迫った危機は凌げるかもしれないが、核保有を条件付で容認された北朝鮮と核兵器を再配備した韓国が対峙するといった朝鮮半島情勢はより安全なのか、それとも危険なのか。しかも既述の通り、韓国への核の再配備は少なからずの余波をわが国に及ぼすであろう。非核三原則を国是としたわが国で長らく封印されてきたタブーにメスが入ることになりかねないのである。(おわり)
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