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2017-11-09 00:00
(連載1)朝鮮半島危機と米朝対話の可否
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
2017年の終りを迎えて米朝間の危機が一進一退を続けており、軍事衝突の可能性が色々取り沙汰されている。こうした中で、軍事衝突を回避するための活路はあるであろうか。米朝間の緊張が急速に高まった中、2017年3月7七日に王毅中国外相は「お互い本当に正面衝突するつもりなのか」と発言し、米朝間の軍事衝突の可能性に警鐘を鳴らした。その上で、王毅は危機の収束策として北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射実験などを停止する一方、米韓両国は合同軍事演習を停止する内容の提案を行った。米朝双方が相手側を挑発しているとし互いに挑発を控えるべきであるとの思いが王毅にあった。しかし王毅の提案はいずれの側からも拒否された。第6回核実験の強行が危惧された金日成主席生誕105周年の4月15日を前に王毅は切羽詰まった危機感を表明した。王毅は14日に、「武力では問題を解決できず、対話のみが唯一の出口ということを歴史は何度も証明してきた」と力説した。
王毅の言う対話とは6ヵ国協議を指すのであろうか。6ヵ国協議はブッシュ政権時代に約5年間以上にわたり断続的に続けられ、幾つかの合意が成立したものの、同政権の終りまでに事実上、行き詰ったという経緯がある。既存の6ヵ国協議の枠組みでは問題の解決は難しい。その最大の事由は6ヵ国協議が立脚したところの前提条件というべきものがすでに実効性を失っているからである。この取引は北朝鮮が「非核化」、すなわち、「すべての核兵器計画の放棄」を実行すれば、米国や他の参加国がその見返りを提供するというものであった。これに対し、北朝鮮は6回も核実験を行い、十数発の核弾頭を保有し、しかもその運搬手段である弾道ミサイルを多数抱える。こうした現実を背景として、金正恩指導部は事ある度に「責任ある核保有国」を自負してきた。
こうしたことを踏まえると、北朝鮮が「すべての核兵器計画の放棄」を議論する協議の場に戻るといった可能性は考え難い。米国、中国、ロシア、イギリス、フランスなど既存の核保有国に対し北朝鮮を核保有国であると是が非でも容認させたいと金正恩は躍起になっている。これに対し、既存の核保有国が北朝鮮を核保有国として容認する可能性は考え難い。NPT(核拡散防止条約)を脱退して核兵器開発に狂奔する国家を核保有国として容認することはNPTの精神に反するだけでなく、北朝鮮の核・ミサイルの矛先が向けられる格好の韓国や日本が核兵器の保有を真剣に検討するという事態を招きかねないからである。結局、6ヵ国協議の再開に向けた展望がなかなか開けない中で、6ヵ国協議という呼称の下で別の内容の協議を6ヵ国が行うことも考えられないわけではない。いずれにせよ、協議が再開されることがあるとしても、自陣にとって流れがよくないと判断すれば、協議の合間を縫う形で金正恩指導部は軍事挑発をまたしても続ける結果、対米ICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発が間断なく進むことは目に見えている。それでは、対米ICBMの完成に向けた時間稼ぎとなりかねない。協議は遅々として進まないばかりか、気が付いたら対米ICBMの性能が一層向上していたというのは悪夢に近いものがある。そうした抜け道や抜け穴のあるような対話をトランプが受け入れるはずはない。
米朝間で暫定的な取引も考えられる。すなわち、北朝鮮が核・ミサイル関連活動を一定期間にわたり凍結する見返りとして、米国は相応の支援を行うという内容の合意である。実際に、2012年2月にそうした米朝食糧・凍結合意が成立した。この合意には、北朝鮮が核関連活動を凍結する見返りに24万トン相当の食糧を米国が提供する内容が盛り込まれた。北朝鮮が核実験、長距離弾道ミサイル発射実験、寧辺の核関連施設でのウラン濃縮活動を凍結する見返りに、米国は24万トン相当の食糧を提供することになった。ところが、合意からわずか2ヵ月後の4月に金正恩指導部が長距離弾道ミサイル発射実験を行ったことで、オバマ政権は合意を反古とした経緯がある。(つづく)
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