ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2017-10-18 00:00
(連載2)臨界点を迎えようとしている朝鮮半島危機
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
発射準備態勢にあるICBMを空爆により叩くという選択肢には多くの問題がある。そうしたICBMを空爆により確実に叩くことができるであろうか。空爆による破壊対象を発射準備態勢にあるICBMだけに絞るとしても、金正恩の目には北朝鮮に対する大規模な空爆と何ら変わらないと映るであろう。その結果、米軍による空爆に対し、金正恩が直ちに大規模な報復行動に打って出るという道筋が導かれよう。2017年4月25日に実施された最大規模の砲撃訓練で示された通り、南北を分ける軍事境界線の北側に張り付けた朝鮮人民軍砲兵部隊が力の限りを振り絞りソウルを「火の海」にすべく砲撃を浴びせることに加え、朝鮮人民軍の大機甲部隊が韓国領内に雪崩れ込むことが想定される。もしもそうした事態へと及べば、米韓連合軍は否応なく猛反攻へと転じることが予想される。この結果、大規模の軍事衝突が朝鮮半島中央部で発生しかねない。緒戦で朝鮮人民軍が優位に立つことがあるとしても、時間の経過と共に米韓連合軍が優勢になると推測される。その後、米韓連合軍は軍事境界線を突破し、北朝鮮全土の制圧に向け北進を決断する可能性が高い。
他方、米韓連合軍による北進が習近平指導部に重大な決断を突きつけることは疑問の余地はない。習近平指導部も自らの権益を確保すべく軍事介入を決断せざるをえない可能性がある。中国共産党系メディアの『環球時報』が4月22日付けの論説で論評した通り、米軍が軍事境界線を突破し北進することがあれば、中国は座視することはないであろう。そうなれば朝鮮半島において米中が激突するという最悪とも言える軍事衝突が起りかねない。そうした事態とは朝鮮戦争の再現であり、「第二次朝鮮戦争」と形容できるであろう。これと並行して、自暴自棄となった金正恩が核ミサイルを韓国やわが国に撃ち込むという決断に至る可能性がないわけではない。こうした展望はすべての関係国にとって何としても回避したい悪夢の展望である。
このため、発射準備態勢にあるICBMの破壊に限定した空爆を断行したとしても、それがもたらしかねない連鎖反応を熟慮すれば、トランプは空爆を思い止まらざるをえないといった可能性もある。そうなれば、金正恩の思い描く道筋が実現に向かう可能性が出てくる。そうした道筋に従えば、遠からずして金正恩が対米ICBMの完成を高らかに宣言し、その上で米朝核交渉を開催し、トランプに核保有の容認を迫りたいところであろう。とは言え、そうした道筋をトランプがよしとする可能性は極めて低い。トランプは今後とも核保有を断固容認する用意がない結果、金正恩とトランプの間で睨み合いはますます尖鋭化するであろう。
とは言え、双方がこれ以上睨み合いを続けることがこの上なく危険であること踏まえると、トランプが米朝核交渉に応じる可能性がないわけではない。その結果として金正恩が認めている筋書き通り、米朝核交渉が開催の運びとなる可能性はないわけではない。しかし核兵器の保有を容認せよという金正恩の要求と、非核化に応じろとするトランプの主張には全く妥協の余地が見当たらない。そうした隔たりを勘案すれば、かりに核交渉が開催されることがあるとしても、妥結に向けた展望は容易に開かれないであろう。この結果、交渉は遅かれ早かれ決裂する可能性が高い。決裂を待ち、金正恩は大規模の軍事挑発へと戻るのに対し、トランプはこれまで以上に厳しい経済制裁を骨子とする圧力行使を再開するであろう。その先に待ち受けているのは万策尽きた上での一触即発の事態なのである。対米ICBMの開発が佳境に入りつつあることに並行して、事態は極めて流動的で、この先、どのように展開するのか全く予測がつかない。朝鮮半島を巡る危機は臨界点を迎えようとしている。ひたひたと、戦争の足音が近づいてくる感を覚える。(おわり)
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会