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2017-09-15 00:00
朝鮮半島難民大量発生論への疑問
倉西 雅子
政治学者
緊迫の度を強める一方の北朝鮮問題については、米軍の対北武力行使の準備は既に整っているとされ、何時、有事発生の速報が届いてもおかしくない状況が続いております。米朝両国とも矛を収める気配はありません。ところで、仮に軍事衝突に至った場合、朝鮮半島から大量の難民が押し寄せるとするシミュレーションがあります。チェタン・ペダッダ米退役陸軍大尉が「フォーリン・ポリシー」に寄せたシナリオでも、短期間で北朝鮮が制圧されることは確定的でありながらも、朝鮮半島は壊滅状態に至り、日本、アメリカ、中国に大量の難民が押し寄せると予測しております(9月10日付産経新聞一面に掲載)。
このシミュレーションは、北朝鮮による核兵器の使用は想定していないそうですが、韓国の首都ソウルが壊滅し、生活・産業インフラも破壊される共に、北朝鮮が大量破壊兵器である生物・化学兵器をも使用するため、人的、並びに、物的被害が広範囲に及ぶと推測しているようです。おそらく、北朝鮮難民は中国を目指し、韓国からは日本国やアメリカを目的地とすると難民が流出すると予測しているのでしょうが(仮に米朝が開戦し、北朝鮮が核兵器を使用する場合には、難民の選択肢は中国一択となる…)、このシナリオには疑問があります。その理由は、歴史を振り返りますと、短期間で民間人居住地での戦闘が終結する場合には、それ程大量の難民は発生しないからです。
例えば日本国の場合、戦争末期にあっては都市空爆を受け、多くの一般市民が住む家を失い、その日の食糧にも事欠くあり様となりましたが、難民となって国外に流出することはありませんでした。否、逃げずに日本国内に留まり、焼け野原を前にして多くの国民が日本国の再建を誓ったからこそ、戦後、奇跡と称された復興を実現することができたとも言えます。この観点から見ますと、シリア難民問題がなかなか解決を見ない理由は、内戦が短期に終結しておらず、住民をも巻き込む形で長期化していることから説明できますし、アフガニスタンからの難民流出が止まらない原因も、同地でのテロや戦闘状態の継続にあります。
かつて、リビアの独裁者であったカダフィ氏は、米欧諸国による空爆を前にして、自国民の難民化とヨーロッパへの大量移入を語って軍事行動を牽制しましたが、大量難民のリスクは、空爆に対して慎重な姿勢にさせる効果があります。しかしながら、軍事力としては米軍が北朝鮮を圧倒している状況にあっては、戦闘の短期終結が予測されますので、一時的避難はあり得ても、難民の大量発生は懸念材料とはならないのではないかと思うのです。また、日本国の経験からしますと、早期の戦後復興を成し遂げるためには、南北当事国の国民は、むしろ自国に留まり、祖国の再建に尽くす必要があるのではないでしょうか。
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