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2017-07-11 00:00
習近平政権を悩ます人民元暴落不安
田村 秀男
ジャーナリスト
中国当局は人民元の暴落を防ごうと、四苦八苦している。中国人民銀行は資金供給量を抑えると同時に市場金利を急速に引き上げているが、米金利の上昇によって効力が減殺されている。元安を放置すると、トランプ米政権から非難されるし、さりとてこれ以上金融を引き締めると、不動産相場崩落を招く。そうなると、全世界に累が及ぶかもしれないが、中国バブル温存のほうがもっと危険だ。中国の金利と人民元の対ドル相場の推移を追ってみる。人民元は2015年8月から下落基調に転じ、今年に入って以降、かろうじて下げ止まっている。とりあえず、底なしの急落を避けられたのは、当局がしゃにむに押し上げた金利のおかげで、下落圧力が緩和されたわけではない。
中国には「愛国者」なぞいない。中間所得層以上の金融資産保有者や党幹部にコネをもつ企業は国有、私有を問わず、人民元が下落するとみるや、地下ルートを含めあらゆる手段、手法を使って資産を海外に移す。ワシントンに本部のある国際金融協会(IIF)によると、資金純流出額は16年、7250億ドル(約81兆円)に上った。ことしは資本逃避が大幅減速したように見えるが、IIFは基調はさほど変わらないとみる。そもそも、中国当局は厳しい資本規制を敷いているにもかかわらず、巨額の資本逃避を防ぐことができない。取り締まる側の党幹部が身内や仲間の不正流出に手を貸すからだ。残る選択肢は、当局による人民元相場操作と利上げしかない。人民元の基準値を恣意的に設定し、1日あたりの変動幅を基準値の上下2%の範囲内に制限しているが、市場の実勢から大きくかい離させるわけにはいかない。基準値に対する市場の信頼性が失われ、さらなる人民元の大量売りを誘発する。
米金利の上昇は人民元不安の要因だ。米金利が上がれば、人民元が売られ、ドルが買われるので、中国は米利上げ幅以上に金利を上げる。それも度重なると突如、人民元資産バブルを破裂させる。不動産市場はいまのところ巨額の余剰資金の受け皿になっているが、上海ではすでに頭打ちになり、実需に乏しいはずの内陸部の不動産がバブル化しつつある。借り入れ資金の金利を上回る幅で不動産相場が上昇を続ける見込みがなくなった途端に、相場は暴落しよう。すると、銀行の不良債権が一挙に膨張し、実体経済にカネが回らなくなる。日本の1990年代のバブル崩壊不況の中国版になる。
これまでもその可能性が指摘されるたびに、やり過ごせたのは、党支配下の市場の不透明さのおかげだ。不良債務・債権の基準が曖昧で、企業や金融機関は隠蔽や別の帳簿に移す不良債権の「飛ばし」が容易なのだ。白日の下にさらされると、銀行は資金や預金を調達できず、破綻するだろう。それは国際金融市場を揺さぶる恐れがある一方で、紙切れの人民元を強引に周辺アジアに押しつけて対外膨張を図る習近平政権の野望をくじくはずだ。
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