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2017-06-03 00:00
トランプ大統領の信認低下が景気を壊す
田村 秀男
ジャーナリスト
トランプ米政権は5月23日、議会に2018会計年度(17年10月~18年9月)予算教書を提出した。米国の予算は政府ではなく議会が作成と決定権限を持つ。このため「デッド・オン・アライバル」(教書は議会に到着した途端に死ぬ)と称されるが、新大統領が議会を動かす絶好の機会だ。今回は議会に到着する前に、死に体になっている。「期待感なき予算教書」(23日付ウォールストリート・ジャーナル電子版)とみなされる始末である。
理由は、トランプ大統領が外遊中でワシントンに不在であるばかりではない。米連邦捜査局(FBI)のコミー前長官の罷免をきっかけにした「ロシア・ゲート」疑惑などトランプ大統領への信認が揺らぎ、オバマ前政権の医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃、大型減税、大規模なインフラ投資など、政権の目玉となるべき政策や予算項目の実現が怪しくなっているからだ。そんな不安から、昨年秋の大統領選以降、続いてきた株式市場の熱狂「トランプ・ラリー」は冷える一方だ。気掛かりなのは経済全般へのマイナスの影響だ。米景気は08年9月のリーマン・ショックの1年後には底を打ったが、その後しばらく回復速度が遅かった。昨年から次第に力強さが出てきている。政権への信頼性の喪失とともに失速しかねない。
米個人消費は株価への感応度が極めて高い。統計学の手法である相関係数を毎年末までの10年間単位で算出してみると、13年末以降は一貫して0・7を上回っている。相関係数は最大値が1だが、0・7以上は相関関係が極めて強いと判定される。日本の場合、株価と個人消費の相関係数は極めて低い。アベノミクスが始まった12年12月以降でみても0・27だ。相関関係がほとんどない水準である。米国の個人消費は株価によって左右される。株価が上がれば個人は財布のヒモを緩めて消費に向かい、株価が下がれば消費を我慢する。米国の国内総生産(GDP)の7割は個人消費が占め、同6割程度の日欧をしのぐ。米景気は株価動向で決まるのだ。
気になるのは日本を含む世界への影響だ。米株価に牽引されてきた世界の株価はすでに上昇基調が崩れているのだが、米実体景気が減速するようだと、世界経済の楽観ムードが怪しくなる。消費税増税による需要減からようやく回復してきた日本経済も例外ではないだろう。今後の景気の最大の鍵になるのは、米株価であり、その株価を動かすのはトランプ大統領の政策への信頼性だろう。トランプ氏がロシア・ゲートの重苦しい霧を解消させる、外交で大成果を挙げる、あるいは低水準の世論の支持率をぐいと押し上げる起死回生策に成功すれば、議会への影響力を強めて政策の実現可能性を高め、市場の評価を取り戻せるのだろうが、まだ見通し難だ。
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