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2017-05-09 00:00
韓国「金正恩バブル」の摩訶不思議
田村 秀男
ジャーナリスト
嵐は来ないと見込んだうえでの狂宴なのか。嵐とは朝鮮半島有事のことで、北朝鮮の朝鮮人民軍創建85年の記念日の4月25日は当面の「Xデー」とみられていたが、核実験もミサイル発射もなく、日韓の株価が跳ね上がった。同日に限らず、メディアが連日、緊迫したニュースを流しているのにマーケットに重苦しさはみられない。日本がそうなるのは「平和ぼけ」の表れといえなくもなさそうだが、首都ソウルが北緯38度線からわずか40キロメートルしか離れていない韓国の方では、日本以上に株価が上昇し続けているのには、正直驚かされる。
韓国の場合、朴槿恵前大統領が罷免、訴追という異様な政治状況が続く。5月9日の大統領選挙では北朝鮮寄りの発言を繰り返す左派系最大野党「共に民主党」の文在寅氏が最有力候補になっている。「親北」だからといって、金正恩朝鮮労働党委員長が核やミサイルを韓国にぶっ放さない、攻め込まないという保証は全くない。不可解だ。韓国経済界を代表するサムスングループの事実上のトップ、李在鎔サムスン電子副会長や幹部4人が贈賄、着服などの容疑で起訴されている。やはり財閥大手のロッテグループは中国市場から締め出しを食らっている。米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に反対する中国が、その用地を提供したロッテを狙い撃ちにした。韓国向け旅行ツアーの停止など、北京からの韓国に対する「経済制裁」はロッテにとどまりそうにない。
今年初め以来の韓国総合株価指数と通貨ウォン相場の日ごとの推移を追ってみる。1月6日に北の4回目の核実験、2月7日には核弾頭搭載用長距離弾道ミサイルの発射実験と挑発が続いたが、株価は下がらない。代わりに目立ったのはウォン安だ。ウォン安とともに株価が上昇気流に乗ったのは3月初めで、3月6日に北京がロッテの23店舗の閉鎖を命じても、総合株価下落は一瞬だけだった。以来、株価が下がるときはウォン相場が上がったときだけである。国内総生産(GDP)に対する輸出比率が約42%(日本約16%)にも上る韓国は通貨安が企業収益や経済全体を押し上げる度合いが極めて高い。従って株価が上がるのも無理はないように見えるが、ちょっと待てよ。
トランプ政権の剣幕に押されて習近平政権が北朝鮮から譲歩を引き出し、緊張緩和に進む情勢に転じた場合どうなるか。有事不安の中で行き過ぎたウォン安は是正されてウォン高に転じる。すると韓国の景気や株価にはマイナスだ。皮肉な見方をすれば、韓国経済にとっては、中国が米国の圧力を適当に受け流す結果、北のならず者が居座り、緊張が長引くほうが好ましいということになりやしないか。でもその場合の株価は「金正恩バブル」、ちょっと気味悪い。
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