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2017-03-17 00:00
中国の「対北朝鮮制裁」にだまされるな
田村 秀男
ジャーナリスト
中国は2月19日から年内いっぱい、北朝鮮からの石炭輸入を全面停止すると発表した。12日に新型中長距離弾道ミサイル実験、さらに翌日には中国が保護してきた金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシアで暗殺されるにおよび、習近平政権が正恩氏切り捨てに踏み切るとの見方があるが、甘くはないか。中国は北が核実験を繰り返し、国連安全保障理事会が対北制裁に踏み切ろうともどこ吹く風で、北からの石炭輸入を増やしてきた。石炭は中国の対北輸入総額の4割以上を占め、北の最有力な外貨獲得源だとメディアが解説するが、経済を知らなさ過ぎる。
外貨は全体の貿易収支が黒字で初めて確保できる。中国は一貫して対北貿易黒字を維持してきた。2016年の対北輸出は32億ドル、輸入は27億ドル、北にとっては5億ドルの貿易赤字である。不足分は中国からの借り入れでまかなう、つまり中国の金融機関による融資で補うわけで、正恩氏直結の企業や商社、銀行は中国の金融機関との協力関係を保っている。正恩氏を締め上げるつもりなら、融資を止めることが先決なのだが、現実はほど遠い。16年の中国からの対北輸出は石油製品が前年比26%、鉄鋼製品9%、自動車は45%各増と急増している。背景には中国の過剰生産があるはずだ。
中国はもともと口先だけは制裁に同調しながら、国連安保理常任理事国の立場をテコに、制裁決議を骨抜きにしてきた。北の輸出による収入の用途が核やミサイル開発など軍事ではなく、民生向けであれば、制裁対象にはならないというただし書きだ。カネに色はないのだから、中国が支払うカネが民生に限定されるはずはないのだが、中国はそれを盾に石炭輸入を増やしてきた。16年9月の5回目の核実験後の国連制裁強化についても、中国側は抵抗してきたが、11月末になってようやく、北からの石炭輸入を年間750万トン(16年の石炭輸入は2250万トン)以下に抑える案に同意し、それに従う形で石炭輸入禁止に応じた。
こうした北京側の態度変化は対中強硬派が要職を占めるトランプ政権の発足と無関係ではない。オバマ前政権は平壌を非難しても、北京には無言だった。15年12月には北朝鮮のダミーのシンガポールの海運会社が中国銀行の口座を利用して、武器を密輸する北朝鮮の貨物船の運航資金を送金していた事件が明らかになった。しかし、米政府は中国銀行のドル取引制限などで制裁しようとしなかった。他にも制裁破りに加担する中国の銀行は多いのだが、おとがめなしだから、中国企業は銀行の支援を受けて対北輸出を増やせる。日本としては、中国の「石炭輸入禁止」にだまされず、トランプ政権と連携し、金融の抜け穴封じに向け、対中圧力をしっかりとかけるべきなのだ。
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