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2017-03-08 00:00
ドル安の誘惑に弱いトランプ政権
田村 秀男
ジャーナリスト
2月10日の日米首脳会談の結果、日本側は麻生太郎副首相兼財務相、米側はマイク・ペンス副大統領が代表となって包括的な経済対話を始める。トランプ大統領がこだわる為替協議は別途、麻生財務相とムニューチン財務相の間で行われる。これで、円高・ドル安に向けた米側からの政治圧力を分散できるとの見方が多いが、油断は禁物だ。トランプ政権に限らず、米国の権力者はドル安の誘惑に弱いのだ。なぜか。
主要国通貨に対するドルの実効相場の前年比変動率をみてみよう。ドル安率とドル高率を米国の海外金融資産のドル換算額の年間増減額と対比させてみる。ドル安時には海外資産は押し上げられ、ドル高時は逆に振れる。2008年9月のリーマン・ショック前は10%のドル安となり、海外資産は4兆ドル(約4兆5300億円)以上膨らんだ。リーマンが起きた直後は、10%以上のドル高となり、海外資産は3・7兆ドルも減った。海外資産は長期的にみると、米企業などの対外投資の増減次第だが、短期的に大きい変動要因はドル相場である。現地資産のドル評価額はドル安・現地通貨高で増える一方で、ドル高・現地通貨安とともに減る。米国は世界最大の借金大国であると同時に最大の対外投資国である。その海外資産はリーマン前で21兆ドル(約2381兆円)超、16年9月時点で25兆ドル弱に上る。現時点でドルが他通貨に比べて10%下がれば2・5兆ドル弱、海外資産がかさ上げされる計算になる。
モノ・サービス合計の米貿易収支赤字は年間で5000億ドル程度だが、2%ドル安になればその赤字分は楽々とチャラにできるわけだ。ドル安にすればするほど、米国の海外資産から外国の対米資産を差し引いた米国の純負債は減る。それこそが基軸通貨ドルを持つ覇権国の特権であり、いざとなればドル安政策に走る。トランプ大統領が貿易不均衡を騒ぎ立てて、中国、日本、ドイツなど主要な貿易赤字相手国の「為替操作」を非難し、各国通貨の対ドル相場の切り上げを求める動機はこれでよくわかるだろう。米国の対外貿易赤字の半分以上を占める中国は別格だ。中国は長い間、当局の為替市場管理と介入によって人民元の対ドル相場を安くして輸出を増やす一方で、米国など外国企業の生産拠点を移させ、雇用を奪ってきた。トランプ政権が中国を目の敵にするのも無理はない。
だが、一本調子のドル安は米金融市場に波乱を生む。ドル安が進むとみれば、投資家は対米投資を縮小するか、ドル資産を売却する。となると、米国の株式や国債などの証券相場は下落し、金利は上昇する。最悪の場合、株式など証券は暴落し、市場はパニックに陥り、世界の市場を揺るがす。リーマン・ショックはその代表例だ。日米の包括的な経済協議で、麻生財務相はトランプ政権の目先の米国利益だけを追うドル安志向にブレーキをしっかりとかけるしかない。
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