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2007-02-06 00:00
両岸教科書問題の波紋
舛島 貞
大学助教授
先日、国際機関の職員と話していて、東アジアでさまざまな枠組みを形成する際に、台湾を含みこむことができないことの問題性が話題になった。衛生問題にせよ、貿易をめぐる問題にせよ、台湾が加わらなければ、ガバナンスのネットにおおきなブランクができてしまうのである。無論、中国は台湾が「国家」として国際組織に加盟したり、国際的な枠組みに加わることは好まない。しかし、SARSをめぐる問題でもWHOと台湾が技術的な面で連絡をとることを、中国は妨げなかった。そうした意味では、中国も台湾がそうしたガバナンス形成の場に加わることを完全に拒否しているわけではない。
他方、台湾は、APECには加わっていても、ASEANとの協力枠組みは有していない。台湾から見ればASEANを基軸とする「東アジア共同体」構想は、その外交空間の確保という点で厳しいものなのである。その台湾と中国の間では今年に入ってから、比較的大きなニュースがあった。一つは、李登輝が台湾独立は「仮の議題」に過ぎず、中国を恨んだことは無く、できれば中国を訪問して孔子の歩いた春秋各国周遊の路を歩いてみたい、などと発言したこと。これは台湾内部で相当な波紋を呼んでいる。これは今年末の新制度制定後最初の立法院議員(国会議員)選挙、また来年3月の総統選挙をにらんでの揺さぶりであろうと思われているが、ここ数年の陳水扁と李の関係の悪化もあり、李が「独」の字を放棄すると宣言したことは、単なる揺さぶりの手段というわけではなく、何かしらの真実味を帯びていると見る向きもある。
他方、この李登輝発言と同様に両岸で話題になったのが、中国と台湾の間で発生した教科書問題である。こちらは中国側のメディアで比較的大きくとり上げられている。『人民日報』(海外版)は、2月1日に「非中国化」の「毒手」がついに教科書にまで及び、その「台独」思想教育がおこなわれようとしていると報じた。台湾では既に中学校用の教科書である『認識台湾』において、自らの生活空間としての「台湾」を意識した社会科教育がなされていたが、今回は高等学校の歴史教科書で、中国/台湾を弁別した記述がなされたことが中国側の抗議につながった。果たしてこの教科書が広東の台湾人学校で使用できるのか、など問題があるという。昨今、鳳凰電視台の呉小莉が地方の政治協商会議の委員となり、その結果台湾への「帰国」が困難になったというニュースが流れたが、両岸関係は昨今さまざまな摩擦が話題になっている。また教科書問題、歴史認識問題という観点から見れば、この問題が、日中のみならず、日韓、中韓、中台で発生していることがわかる。
「ウィン・ウィン」を掲げる中国の周辺との協調外交には、いくつか譲ることのできない問題がある。ひとつは日中の歴史認識問題、いま一つは台湾問題だ。前者に就いては共同研究がはじまったが、後者に就いては来年の選挙に向けて「つばぜりあい」が活発になっている。ここ数年国民党が民進党に対して優勢で、両岸関係はきわめてよかったが、馬英九周辺の問題などがあり、昨今は微妙な状況になっている。今後、両岸関係が過度に悪化し、中国が台湾の国際社会における活動空間を「過度に」制限するような動きを見せれば、それは東アジアにおけるさまざまな秩序形成にとってマイナスになろう。台湾の活動空間を一定程度確保、維持する状態、最低でも現状維持が望まれよう。
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