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2017-01-10 00:00
トランプノミクスの帰結は米中版プラザ合意
田村 秀男
ジャーナリスト
富裕層や企業への大型減税を標榜する米国のトランプ次期政権の経済政策は、1980年代のレーガン政権の政策「レーガノミクス」を思い起こさせる。トランプ氏はインフラ整備を目標とした財政出動を言明し、「小さな政府」を掲げたレーガン政権とは異なるのだが、政策の対外的な帰結は似通ったものになりそうだ。レーガン政権は主なターゲットを日本とし、「プラザ合意」(1985年9月)によるドル高是正と貿易相手国に報復する通商面での強硬路線をとった。トランプ政権は今回、中国を対象に同様の策に出そうだ。
最近1年間の人民元の対ドル相場とプラザ合意の事前交渉開始前の1年間の円・ドル相場の推移を対比させてみると、今の人民元の対ドル相場は、プラザ合意前の円の対ドル相場よりもなだらかに安くなっているが、11月8日の大統領選前後からは下落速度が速くなっている。81年に発足したレーガン政権は「強いアメリカ」を唱えた。米連邦準備制度理事会(FRB)は第2次石油危機後の高インフレ対策として金利高政策をとり、ドル高が進行した。ニューヨーク・ウォール街には外国からの資本が流れ込んで沸き立った。しかし、ドル高・円安のために自動車や半導体産業など米製造業の競争力が大きく低下し、日本企業の攻勢に押された。今は半導体業界の世界王座に君臨し続けているインテルも存亡の危機にさらされた。
85年に2期目に入ったレーガン政権は対策を講じようとしたが、レーガン氏本人はあからさまな保護貿易や国内産業補助を極度に嫌った。そこで、ベーカー財務長官(当時)が一計を案じて日本や西独(現在のドイツ)などを巻き込んでドル高是正の国際協調を演出したのがプラザ合意だ。他の閣僚もそれに合わせて、通商法を積極適用し、日本の半導体産業などを標的にダンピングなど「不公正貿易慣行」を摘発して制裁関税をかけるようにした。その調査のために、中央情報局(CIA)まで動員した。今回、ドル高、金利高は次期政権発足を待たずに始まった。ニューヨーク市場は、トランプ氏の減税と大型のインフラ投資政策が米景気を拡大させると期待する半面で、財政赤字を拡大させると見込む。
その結果、米国債は売られて金利が上昇し、株式とドルが買われる。来年1月の政権発足までには拡張財政がより具体化すると同時に、FRBも利上げに転じるので、金利高・ドル高傾向が定着しかねない。ドル高は米産業の競争力を減じ、輸入を増やすので、トランプ政権の製造業の復活というもくろみを潰しかねない。そこで響き渡るのはトランプ氏の「一律45%の中国向け関税」適用案だ。人民元安に誘導してきた中国を為替操作国として認定し、制裁する。かつて日本を主要対象とした米通貨・通商政策が中国に向く。「米中版プラザ合意」になるのか、それとも激しい米中貿易戦争になるのか。
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