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2016-12-15 00:00
安倍は居丈高のプーチンに甘い顔を見せるな
杉浦 正章
政治評論家
他国を公式訪問する前にロシア大統領プーチンほど無礼な発言をする首脳を見たことも聞いたこともない。インタビューした読売が社説で「あまりに独善的」と批判すれば、産経も「火事場泥棒のように領土を奪った自らの歴史を歪曲」と主張している。たしかにプーチンの発言から見る限り、戦後のどさくさに紛れて日ソ中立条約を無視して領土をかすめ取ったことなど、知らぬ顔の半兵衛だ。産経の表現をさらに敷衍(ふえん)して言えば「盗っ人猛々しい」とはこのことだ。それにもかかわらず首相・安倍晋三は経済協力で懐柔しようとしているかにみえるが、甘いのではないか。協力は領土交渉の進展に見合う形で行うべきことはいうまでもない。これでは「経済協力だけ食い逃げされた」と受け取られても仕方がない。
一連のプーチン発言を善意に解釈すれば、訪日を前に領土交渉のハードルを上げて、小さな合意でも大きく見せようとする外交上のテクニックと考えられなくもない。しかしその発言は、儀礼を欠いた侮辱であり、まるでやくざの言いがかりのようであり、ごり押しであり、矛盾に満ちたものである。侮辱の最たるものは、日米同盟に関して「日本はどの程度独自に物事を決められるのか」と発言した事だ。かつてのソ連を盟主とする衛星国なみに訪問国をおとしめる発言だ。仮にも独立国の、しかもGDP3位で世界有数の民主主義国に対して、GDPが韓国に次いで12位の国のリーダーがする発言だろうか。挑発して相手の譲歩を勝ち取る狡猾なるプーチンの性(さが)が露骨に現れている。また貧すれば鈍するで、強気に出てナショナリズムを刺激し、国内の支持を維持しようとするプーチンの政治家としての“限界”も露呈した発言である。国民を「北方領土」で説得する能力も気力もないのだろう。
「言いがかり」はG7が行っている経済制裁に関して「経済制裁を受けたままで経済関係をより高いレベルに上げられるか」と述べた点だ。紛れもなく武力によってクリミアを併合し、「力による現状変更」で世界の法秩序を無視した自らの暴挙を棚に上げた発言である。ならばロシアが悪乗りして、総額3兆円とも4兆円ともいわれる経済協力を求めている事実はどうなるのか。経済制裁を受けたままで経済関係を強化しようとしている事にほかならないではないか。自らの発言こそ大矛盾であることに気付いていない。さらなる言いがかりは、プーチンが「4島返還は1956年の共同宣言の枠を超えている別の問題だ」とにべもなく4島返還を拒否し、「われわれはいかなる領土問題もないと考えている」と発言したことだ。これほどの牽強付会(けんきょうふかい)なこじつけはない。1993年にエリツインと細川護煕は「東京宣言」で、両国間の関係を完全に正常化するために「北方四島の帰属に関する問題を歴史的・法的事実に基づいて解決し、平和条約を早期に締結するため交渉を継続する」ことを明確に合意しているではないか。プーチンは歴史をねじ曲げて、独善的な解釈を押しつけようとしているのだ。
「ごり押し」は4島での共同経済協力活動について、プーチンが「ロシアの主権下での経済協力活動」を進めようとしていることだ。ロシアの主権下での協力活動は、日本が4島をロシアの領土と認めることになり、既成事実化をいっそう進めることになる。両国事務レベル間では経済特区を作ることや「経済活動ががいずれの政府の立場・見解をも害するものとみなしてはならない」といった協定を作成するなどの便法が考えられているが、プーチンはこれくらいの譲歩は当然すべきであろう。プーチン発言からは、総じて筆者が心配していた「やらずぶったくり」や「食い逃げ」路線がいよいよその姿をあらわにしてきたことになる。経済産業相世耕弘成は、合意する経済協力について「必ず融資・投資して返ってくるプロジェクトを選んだ。いわゆる『食い逃げ論』は当てはまらない」と述べているが、産経は社説でこの発言に「国民の理解を得られるか」と疑問を投げかけている。当然である。そもそも領土返還のめどが立ちそうもないにもかかわらず、医療やエネルギー、極東開発などが含まれる8項目の経済協力プランだけが先行して合意されること自体が解せない。あくまで取引材料となるべき事だろう。融資・投資して必ず返ってくるプロジェクトというが、凍り付いた地の果ての島にそれほどの商機があるかどうかは疑問である。日本の“持ち出し”となる危険性を常に帯びている。
問題は安倍がこのプーチンの唯我独尊路線を15日の会談で転換させられるかどうかにある。プーチンの発言から見る限り、安倍は過去15回にわたって会談を繰り返したにもかかわらず、何ら打開策に達していないことが分かる。それどころかプーチン発言は過去の首脳会談と比較して後退している印象だ。トーンを下げて安倍は「1歩前進」と言い始めたが、ここは、開き直るくらいの強い姿勢が求められるところだ。日本はプーチン時代に4島が返るなどという幻想を抱かない方がいいし、国民にその幻想を抱かせてはなるまい。経済的に日本が得る利益は微少なものであり、合意をしなくても何ら痛痒を感じない。ここは安倍が乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負をすべきところであり、領土問題を脇に置いて、もみ手で関係改善を頼み込む場面ではない。あくまでも4島の主権は日本にあるという原則にのっとった交渉に徹すべき時だ。
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