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2016-12-13 00:00
厚木騒音訴訟「飛行差止棄却」最高裁判決は妥当
加藤 成一
元弁護士
米軍と海上自衛隊が共同使用する神奈川県厚木基地の周辺住民が、騒音被害を訴え、国に対し夜間・早朝の飛行差し止めを求める行政訴訟と、損害賠償を求める民事訴訟を提起した第4次厚木騒音訴訟の上告審判決で、最高裁第一小法廷は12月8日、「自衛隊機の運航には高度の公共性と公益性があり、防衛大臣の裁量権乱用には当たらない」として、裁判官全員一致で、自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めを認めた平成27年7月30日の第二審東京高裁の当該判決部分を破棄し、棄却した。
基地騒音訴訟で、全国で初めて自衛隊機の飛行差し止めを認めた平成26年5月21日の第一審横浜地裁判決は、(1)自衛隊機と米軍機の運航は、わが国の安全と極東における国際の平和と安全の維持に資し、国民全体の利益につながる公共性ないし公益性を有する、(2)しかし、自衛隊機及び米軍機全体が発する騒音により基地周辺住民は、社会生活上受忍すべき限度を超える被害を被っている、(3)かかる被害を及ぼす防衛大臣の自衛隊機運航の行政処分は、自衛隊機の運航等に関する諸基準を定めた自衛隊法第107条第5項に違反する、(4)よって、特段の事情がない限り、午後10時から午前6時まで自衛隊機の運航差し止めが認められなければならない、というものであった。第二審東京高裁判決も、基本的に第一審横浜地裁判決を支持し、より明確に、防衛大臣の自衛隊機運航の行政処分が「裁量権の範囲を超え若しくはその乱用となる」と認め、夜間及び早朝の飛行差し止めを容認したものである。
ところで、本件騒音訴訟において、夜間及び早朝の飛行差し止めを認めるかどうかの基準は、自衛隊機運航による公共性ないし公益性と、基地周辺住民の騒音被害の救済とを比較衡量し、裁判所がそのいずれを重視するかによるもの、と思料される。第一審横浜地裁判決及び第二審東京高裁判決は、公共性ないし公益性よりも基地周辺住民の騒音被害の救済を重視したものと言えよう。しかし、国の安全保障には昼夜の区別はなく、常に24時間体制による領土領海領空の警戒監視活動が必要である。他国からの武力攻撃は、昼夜を問わないからである。仮にも、飛行差し止めにより、夜間及び早朝における警戒監視活動が手薄となるようなことがあってはならない。
今回の最高裁判決は、基地周辺住民の騒音被害を認めながらも、金銭賠償にとどめ、自衛隊機の運航による安全保障上の高度の公共性と公益性を重視し、騒音被害軽減のための運航規制や総額1兆円以上の防音対策、移転補償、周辺対策事業の実施などにより、防衛大臣の自衛隊機運航につき裁量権の乱用はないと認定した。以上の理由により、夜間及び早朝の飛行差し止めを認めた第二審東京高裁の当該判決部分を破棄し、棄却したことは、法律上及び我が国の安全保障上の観点からも、極めて妥当な判断であると言えよう。
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